節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

jump scare嫌いの納涼「残穢」

怖いの、嫌いなんですよね。

 

怖いの、嫌いです。だから夏の怖いビデオ特集とか、本当に嫌。何が嫌かって、家族が割と見るんですよ。家族が見てる中で俺だけこっそり部屋に行ったら「アイツ怖いんだwww」とか言われるじゃないですか。家族に。嫌ですね。

 

いや、ああいうビデオ、怖くは無いんですよ別に。ただ、ビックリする。

 

そう。俺はビックリするのが嫌で、ただ怖いのが嫌なわけじゃない。突然大音量の悲鳴や呻き声がギャーッ!怖い顔とかが画面にドーンッ!そういうのが嫌なだけで、ただ怖いのは別に嫌いじゃない。ビックリ系を嫌うのは、生物の本能みたいな物だから。嫌いなのがむしろ正常。ビックリ系が好きな人、せいぜい事故とか気をつけてくださいね。スリルを求めすぎないように。

 

怖いだけなのは別に嫌じゃないんですよマジで。ムーとか結構好きだし、SCPとか読んでるし。今回のFGOのホラーイベントも普通に楽しめたし。アレが嫌な層も結構いるようだし、そういう人たちと比べれば全然普通。俺は別にホラーが嫌なわけじゃない。純粋なホラーはむしろ好き寄りなのでは?

 

そんな事を友達に言ったら勧められたのがこの「残穢」です。「感想待ってるぜ!」だそうです。

 

…………嫌ですねぇ。

 

 

【あらすじ】

 この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が……。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢れ」となり、感染は拡大するというのだが――山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!

 

……借りた時に警戒しすぎて、ドッキリ系の挿絵がいきなり出てこないかパーッとめくって確認してしまったわ。無かった。友人なんだけれどもそういう騙し討ちをしそうな奴なんですよ、アイツ。

 

それだけを示して以下、ネタバレ注意。

 

 

 

同じマンションの全く違う部屋で、同じような「奇妙な音」が聞こえる……。そんな言ってしまえば規模の小さな怪異を調べていくうちに、そのマンションの……「土地」にまつわる様々な過去が明らかになる。そんなお話ではあるのだが、いわゆる幽霊が主人公の前に出てきてギャーッ!と言うようなシーンは、無い。

 

いくつか主人公が「何か」の気配に違和感を覚えるシーンはあるけれど、基本的には「ここでは昔……」と言うお話を聞くに留まる。その話の連鎖が見どころの一つではあるのだろう。

 

特筆すべきはこの主人公の理論構築能力で、どんな怪異の気配にも驚きはしない。ホラー作家という職業柄か、「このパターンか」と構えを崩さない。そして周囲の人の話を冷静に聞いて、今まで仕入れたネタを知識として活かし……こんな主人公の視点で語られた結果、主人公だけでなく、この本自体が全体としてどことなく理性的になっている。

 

写真に小さな光球が!これ『オーブ』ですよね!?

 

「写り具合から考えて、夜間にフラッシュを焚いて撮影した写真のようだった。だとしたら、この光は異常なものではなく、ハウスダストがフラッシュを反射したものだろう。一般にオーブと呼ばれるものは、ほとんどが埃か水滴の類だと思う」(p14)

 

なかなか人の居つかない部屋が!

 

「『もともと、このへんは人の定着しないところなんだよね』

 

変な意味ではなく、そもそも人の入れ替わりが激しい地域なのだと益子さんは言う。結婚や出産に際して住み変わるには手頃な場所だが、終の棲家にするには物足りない」(p45)

 

自殺者が同じ場所で連続で!

 

「実際のところ、同じ場所で自殺者が続くことがある。ただしこれは、自殺を企図した人間が、過去に自殺の起こった場所を死に場所として選ぶために起こる現象だ。いわゆる『自殺名所』がこれにあたる。あるいは、過去の自殺を模倣するということもある。新幹線からの飛び降りが起こると、ひとしきり同じ手法の自殺が続く。その意味で『自殺者は自殺者を呼ぶ』のだ。ゆえに報道する際、場所や方法を陳述しない、という方針をとっている国もあるし、これは自殺の抑制に一定の効果があるとされている」(p64)

 

赤い染みがべったり!さては血!?

 

「(中略)おそらくは血痕ではない。フィクションの中では美的な見地から赤黒い血痕などと描かれるが、実は血液は非常に退色しやすい。新鮮な状態では暗赤色をしているが、日光の影響によって赤褐色から褐色、緑を帯びた褐色、墨色へと、たやすく色を変えてしまう。コレは血液中の赤を呈するヘモグロビンが光の作用によってメトヘモグロビン、ヘマチンへ変化していくためだ」(p140)

 

……このようなスタンスは、実際に怪異が現れるようなシーンでも揺るがない。主人公家の廊下の照明のセンサーが、どうも「何か」に反応しているようだ。主人公は果たしてどんな反応をするのか……。

 

「なんだろうね、と私は猫に問いかける。以前住んでいたマンションの駐車場で拾った茶トラの兄弟だ。猫たちは不思議そうに私を見て、突然、はっとしたように二匹同時に同じ方向を振り返った。茶トラには珍しいグリーンの眼で中庭の窓越し、じっと廊下のほうを見つめている。神経質そうに尻尾の先を動かしながら。

 

こんなことが、最近、よくある」(p219‐220)

 

凄いなこの人。この猫ちゃん兄弟の反応は……これは猫ならよくある事。フェレンゲル・シュターデン現象。あのコピペ好き。

 

で、そんな冷静な視点から語られる「残穢」の物語ならば怖くないのか。コレはね、冷静な視点で語られるから怖いんですよ。……怖いって言っちゃったよ。しゃあない。俺はホラーが怖いです!薄々そんな気はしていたんだ自分でも。

 

いやぁだって、例えば「心霊スポット巡りと称して不法侵入をする」であるとか、あるいは「神仏を粗末に扱う」であるとか……そういう「非」が明確にあったり、あるいは当初は善性の人物だったけれどもちょっとした怪異に怯えた事でかえって「地雷」を踏んでしまうような……そういう事がない、ただの「理性的な人物」でも、この怪異は普通にロックオンしてくる。

 

何かおかしい事があった時、「コレはおかしい!こんな事はあるわけがない!」とそういうビデオみたいな悲鳴をあげながら半ばパニックになられてしまうと、反射としてはこちらもビックリしてしまうが、少し時間が経つと「いや、そこまでじゃないな」と冷静になる。なれる。

 

ところがこの本の場合、「冷静に考えてみよう。……というのはおかしくない。しかしこの土地では……という過去があり、……という共通点がある。それだけなら偶然かもしれないが……という点においては……。……という事は、やはりどこかおかしい」くらいのテンションなので、ビックリはしないものの、実に自然に「そうか……おかしいのか……」と飲み込めてしまう。コレを結構な頻度で連続して行われるので、恐怖の総量は結果的に「ギャーッ!」を超えることになる。

 

最終的に「絶対にヤバい本拠地行こうぜ」みたいな「今確信したけどお前絶対『理性的な人物』じゃないよな」と気付ける段階に進む頃には、もう充分飲んじゃっている。飲んじゃったなら元凶まで付き合いたくなる。そうすると、怖い。

 

でも、この怖さは不快では無かったですね。単純に面白く、その点でも続きが気になった。なるほど、みんなこの感覚を味わいたくてホラー見てるのか。ギャーッ!系統の醍醐味もそれですか?それはまだよくわからないです。まぁFNAFも考察とかスゴく楽しそうだからな。近いものはあるのかもしれないけれど。

 

「怖さ」で言えば、他の人の感想などで見た「自分の家の土地が気になって……」みたいな事は自分には起こらなかった。この本の「元凶」とかあるいは全体にある「仕掛け」みたいな感染系は、一時期怖がりまくったので耐性がある。

 

俺が何回、火竜そば系統に引っ掛かったと思ってるんですか。

 

俺が何回、サッちゃんの歌(都市伝説Ver)聞いたと思ってるんですか。

 

俺に何通、不幸の手紙が回ってきたと思ってるんですか。止めたしよ。

 

比較的最近の所では、俺が何回、日本支部の白虎と目を合わせて、朱雀の召喚呪文読んだと思ってるんですか。

 

……こういうのは慣れが一番ですね。いつか悪霊過積載を起こして血とか吐いてぶっ倒れるかもしれないけれど。

 

「ギャーッ!」な悲鳴とか、いきなりの怖い顔が無ければホラー大丈夫だと思っている方は、試してみるのもいいんじゃないでしょうか。

 

一切、責任は取らねえけど。

 

あと、書く流れがつくれなかったのでココで書きますが、中盤から主人公を苦しめる首の痛みの原因が、最後の最後に明らかになるんですが、それも良かった。コレはネタでも何でもなく。

 

世の中全ての不幸が怪奇現象に由来するのかと言われれば、そんな事は当然ないからね。怪奇現象全然関係ない、不幸まみれの世の中です。悪霊全然関係ない場所でも、血とか吐いてぶっ倒れるかもしれないね。南無南無。