節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

推しの生存率50%(1巻だけで)「異修羅 新魔王戦争」

ちゃんと大量のサンプルを用意して統計をとったわけでも、「ひぐらしになく頃に」の正答率が「1%」だったその理由みたいな話でもないです。

 

「異修羅」の1巻を読んで、俺が好きになった(戦闘開始の際に心の中で「お、頑張れよー」した)キャラが4人居て。そのうちの2人が、死んだ。

 

ただ、それだけの話です。

 

 

 

50%……さて、これが高いのか低いのか。貴方が読んで好きになるキャラクター達の生存率は何%でしょうか?悲しいお知らせになるかもしれないが、0%は難しい。この作品で複数のキャラクターを好きになっておいて、みんなで楽しく生きました、なんてそんな甘い考えは。

 

現にまだ「本戦」も始まっていないのに、俺の生存率は50%だ。コレからまだまだキャラクターがどんどん出てくるのだろう。他のキャラの見せ場もあるだろう。生き残った2人の危機もあるだろう。俺はそのうちの何人を好きになってしまうのか。生き残れるのは何人なのか。

 

恐ろしいなりに楽しみではある。「嫌い」や「苦手」なキャラクターは1人も居なかったし、「普通」の一言で終わるようなキャラクターもいなかった。読めば最低でも1人は刺さるだろう。ソイツが生き残れるかどうかは、保証しない。出来ない。俺は半数死んだからよ。

 

 

【あらすじ】

魔王が殺された後の世界。そこには魔王さえも殺しうる修羅達が残った。一目で相手の殺し方を見出す異世界の剣豪、音すら置き去りにする神速の槍兵、伝説の武器を三本の腕で同時に扱う鳥竜の冒険者、一言で全てを実現する全能の詞術士、不可知でありながら即死を司る天使の暗殺者……。ありとあらゆる種族、能力の頂点を極めた修羅達はさらなる強敵を、”本物の勇者”という栄光を求め、新たな闘争の火種を生み出す。全員が最強、全員が英雄、一人だけが勇者。”本物”を決める激闘が、今、幕を開ける――



 

ネタバレにならない程度に登場するキャラクター、「修羅」を中心に感想を書く。基本的には登場順……「紹介された順」に。それからどの4人が俺の推しだったのかは解らないように書いておく。ネタバレになるし。「この4人の内2人死ぬのか……」となるし。受け身などとらせるものか。あと配慮はするが、ネタバレ注意。

 

 

 

柳の剣のソウジロウ

 

「……ウィ。経験上な。なんでも、何にもなくなってからがいい。どこ行くのも何やんのも、テメェの勝手でできる。……いいもんだぞ」

(p18)

 

我々読者の前に初めてその姿を現す「修羅」だ。あまりの「規格外」であるが故に本来住む世界から追放されてしまった「客人」である。わかりやすさを優先すれば「異世界転生者」だ。この辺りの表現は1巻だけだとそう言い切って良いものか迷うけれど。どうも「それだけ」では無いような気もする。

 

柳の剣のソウジロウの「修羅」たる所以はなんといってもその……ソウジロウだけでも本文を引用しようか。

 

それは単独の真剣のみで、史上最大の機魔を撃破する事ができる。

それは遍く伝説をただの事実へと堕する、頂点の剣技を振るう。

それは全生命の致死の急所を理解する、殺戮の本能を持つ。

世界現実に留め置くことすらできぬ、最後の剣豪である。

 

剣豪。人間。

 

柳の剣のソウジロウ。

(p41)

 

たまらねえな。共通のフォーマットがある詠唱とかが好きな人はマストでチェックですよ。コレ、今から紹介する全員分あるからな!引用はソウジロウしかやらないので他のが気になる人は買うが良い。

 

その剣技と観察眼……否、本能からは何者も逃れる事はできず、ただ見られた通りに切られるのみ。先述の通り「史上最大の機魔」……ナガン迷宮機魔でさえ、それは例外ではなく。右肩内奥の刻印を破壊され、死んだ。

 

一番初めに出てきた所からのイメージかもしれないが、基本的には群像劇である本作の主人公を敢えて1人に絞るなら、彼……か、彼と行動を共にする「遠い鉤爪のユノ」になるのかな、と思う。ユノちゃんは良いですよ。良い具合に後ろ向きなのが良い。

 

 

 

 星馳せアルス

 

「中央山脈の棘沼の盾とか……カイディヘイで拾った鞭……魔弾だって、たくさんあるから……」

(p82)

 

様々な武器やマジックアイテムを持ち、使いこなす事ができる鳥竜(ワイバーン)だ。異形の「3本の腕」を持ち、「対応できる状況の幅」で言えば修羅の中でもトップクラスだろう。数々の迷宮から財宝を奪ってきた、「冒険者」の腕は伊達ではない。

 

「常に全種のアイテムを持ち歩いているシレン(LV100、プレイヤーの腕も最上級)」みたいな表現……でも足りないか。なにせアルスの持っている財宝とくれば、それ一つでも戦況を左右しうるほど強力なもの揃いなのだから。ただの「おにぎり」とか「棍棒」じゃないんですよ。全部「秘剣カブラステギ」とか、「サトリの盾」とか、そのあたりのピーキー具合だ。

 

そんな凄腕の「冒険者」である彼だがその口調はどこかダウナー気味、そして唯一この鳥竜が尊敬する相手は、同僚のほとんどから下に見られている、そして実際「読んでいると応援したくなるけれども同僚だったら近くにはいたくないなぁ……」なオジさんで……この辺りの関係性もすごくよかった。異種族同士の交流はいつ見ても良いものですね。

 

 

 

鵲のダカイ

 

「何故か……けほっ、分かってくれる奴がいないんだけどさ」

 

ダカイは、手の内で魔剣を回転させた。敵は既に眼前。

 

「俺、盗賊なんだよなあ。……本当は剣士でも医者でもないんだ」

(p327)

 

絶対先手の効果を持つ魔剣、「ラズコートの罰の魔剣」を操る剣士……ならぬ盗賊である。世界より追放された「客人」の中において、折り紙付きの無法者だ。涼やかに軽口をたたきつつ、暴力の行使を躊躇わない。そして、どんな時でもキザな台詞を忘れない。

 

盗賊の技術で迷宮から財宝を盗み出し、そして魔剣を操る……と紹介すれば(ソウジロウ+アルス)÷2というように思われてしまうかもしれないが、実際にはこの2人とは全く別の魅力があるキャラクターであり、特に「ソウジロウとの違い」はしっかりと描写されるので必見である。

 

 

 

夕喗の翼レグネジィ

 

(……クズどもを導く。僕は群れから逃げるものか。真に強き者は、率いる者。より多くの命に責任を負う者だ)

(p109)

 

「数の暴力」は現実において最も強力な「力」の一つであり、そして同時にフィクションにおいて軽視されがちな「力」である。有名な所だとストーム・トルーパー効果。

 

レグネジィはそんなフィクションの住人でありながら、「鳥竜の空軍」を取り仕切るコマンダーである。冷徹に部下たちを統率し、勝手な行動を「軍規違反」として厳しく罰する。数の暴力を見せてやる!

 

「空軍」はどこまでも「軍隊」であり、そこに本来の鳥竜が持つ野性の自由さの様な物は無い。それを完全に奪ってしまうのが、レグネジィなのだ。「軍隊」と化した自身の群れを、彼はまとめあげ、そして運用する。

 

翼持つ群れは、果たしてどこまで修羅に通用するのか。部下達を適度に捨て駒にしつつ、相手の力量を推し量る。

 

盲目の少女と仲が良かったり、一人称が「僕」だったり、ところどころであざとい。異種族同士の交流はいつ見ても良いものですね。

 

 

 

世界詩のキア

 

「もしもあたしが『死ね』って言えば……そんな奴ら、みんな死んじゃうんだから!」

(p134)

 

「言った事が本当にそうなる」……そんなエルフの女の子です。

 

なんか今までとジャンルが違うぞ!

 

実在すら疑問視される「世界詩」の能力は正に全能。無機物への命令や、天候操作すらも可能とする、今時の表現をするならチート能力である。というか世界観設定的にもかなりギリギリの線の気が。詞術……の設定がまだ頭に入りきっていないが、原義でチートなんじゃないか?

 

そんな少女と行動を共にするのは、独自の目的を持って動く黄都二十九官……赤き紙箋のエレア。正直謀略目的でフル活用されたらたまったものじゃない能力だけれど……この2人の危うい関係もどうなるか先が読めなかった。

 

とにもかくにも他の修羅とは一味違う能力を持つ少女。もし戦闘になってしまったら……定石では「なにかを言われる前に終わらせる」、超速攻か知覚外からの不意打ちで対処すべきか……と、思うじゃん?

 

 

 

海たるヒグアレ

 

「また一つ学習できました。ありがとうございます」

(p 276)

 

個人的に、見た目だけなら一番「異」っぽい修羅。でっかい根っこのマンドレイクだ。うぞうぞ。

 

元々は見世物として戦う奴隷剣闘士……その余興の「やられ役」として収穫されたところ、盛り上げるためだとゴロツキが、うっかり短剣の握り方を彼に教えてしまう。それがヒグアレの常勝街道の第一歩だ。

 

従順に学習を重ね、次々と組まれる理不尽な戦いに対応し続ける。そして生まれた42本の「腕」による高速斬撃と、身体中に蓄えられた致死の毒。奴隷なのに強いのではない。奴隷だから強いのだ。

 

機械的な口調がキュート。

 

 

 

通り禍のクゼ

 

「どうすれば……皆が救われるんだ?」

(p 373)

 

強者ならば皆が皆、好戦的というわけではない。教団所属のクゼさんは、とても優しい聖職者だ。……最強で不死身の始末屋ではあるが。

 

しかしどうもそうは見えない。見た目は冴えない中年男性で、武器の一つも持っていない。持っている者といえば、大きな盾くらいのものだ。

 

しかし戦えば不思議なことに、相手が勝手に死んでいく。クゼには傷の一つもないままに、ただ相手だけが倒れていく。

 

……通り禍のクゼ自身は修羅に非ず。だがクゼは、絶対致死の権能を持つ、不可視の天使に守られている。クゼを傷付ける者は許されず、「死の運命」に襲われるのみ。

 

通り禍のクゼ、改め、静かに歌うナスティー

 

 

 

濫回凌礫ニヒロ

 

「ふふふふ!ふふ……体が軽い!」

(中略)

「自由、自由だ……ああ。自由は、いいなあ!」

(p245-246)

 

 

異修羅がゲーム化するでしょう。……冗談でなくそれくらいのポテンシャルは全然ある作品なので、いずれするとしましょう。その際に「絶対戦いたくない」修羅。

 

  • 体力バーがすごく長い。不死身とも。
  • 物理攻撃を99%カットする『埋葬のヘルネテン』に騎乗する
  • 戦場を高速で移動し、またその移動自体に攻撃判定がある
  • 遠隔攻撃手段にも優れる

 

なまじ数値設定だけで再現率が高く出来そうな分、戦いたくない。もっと「強い」キャラクターは他にいるかもしれないが、それよりも戦いたくない。確実に「楽しくない長期戦」になる。「高倍率のダメカ」と「超HP」を同じキャラクターに持たせるとこうなるのだ。その分攻撃力を低くしてバランスを……みたいな気遣いは無く、普通に高い。街を少し移動しただけで壊滅状態だ。

 

そしてこんな「戦いたくない」相手なのにビジュアルが最高。「ゴツい多脚歩行戦車に乗ったゾンビ少女」ですよ。是非お相手したい。恵まれたキャラ選択画面からのとんでもないクソゲーを強いられる事になるけれども。

 

「既にパイロットが死んでいるので高速移動の衝撃などを考えなくて良い」という悪趣味かつ合理的な設計思想が見事。

 

 

 

……ん、アレ?……(再読中)……そうか、この基準だと出てこないのか……修羅じゃない?……そんな事は無いと思うけれど……でも締めにも……うーん?

 

 

 

……この様な強者がぶつかり合うのが「異修羅」である。加えてこれは第1巻。まだまだ魅力的なキャラが登場するのだろう。名前だけなら何人か出ている。名前だけでも格好良いんだ。二つ名大好き!

 

強者である修羅以外(ここにクゼが入るかどうかが微妙)も魅力的で、「警めのタレン」は気高さと優しさを併せ持ち、「月嵐のラナ」はその立場に翻弄され続け、「静寂のハルゲント」はハルゲントで、そして「遠い鍵爪のユノ」は弱者でありながら、『その言葉』を口にする。

 

「私と、戦え」

(p 338)

 

強者と強者、そして「そうではない者」、「そうなれなかった者」の関係性が非常に濃密に描かれた本作はとてもお勧めである。俺は「このラノ2021」の投票先に選びました。2巻3巻、そしてその続きが楽しみだ。

 

 

 

(以下推し4人について。読了後反転推奨)

 

ちなみに俺の推しはヒグアレ、クゼ、ニヒロ、シャルクでした。この記事だけだと「シャルクって誰だよ!」となってしまうのは俺も予想外だった。まだ「え?構文見逃した?」と半信半疑。2巻以降で本格的な出番あるのかな。

 

気になるか。読め。登場は割と前半だよ。……あ。「気になる」って事は読まずに反転したな。メッ!