節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

ヘブンズ・ドアーにひれ伏すが良いッ!「岸辺露伴は戯れない」

……露伴先生にはもう1個「コレも嘘」構文があるので、こっちの書き出しもそれで良かろう、と考えてはいたんだけれども……。

 

実際、「戯れ」てはいないんだよな。四六時中の一挙一足が全部「漫画の取材」になっちゃう人だから、「ただ遊ぶ」みたいな事はまるで無い……。露伴先生はいつでも真剣にやってるんだ。

 

……出来れば「子供をいじめて防犯ブザー鳴らされて慌てて逃げる」みたいな下りは、真剣にやらないで欲しかった……。そこは遊びであってほしかった……。

 

……いや、遊びでも駄目なのだが、しかし露伴先生にそれを理解させるのは難しいのだ。

 

 

 

幸福の箱

著者は北國ばらっど。

 

知り合いの美術商、五山一京に紹介されたオブジェクト、「幸福の箱」を巡るお話。「鍵の掛かるロッカー理論」で言えば、まぁ、safeクラスで問題ない。……もう新規の被害者は出ないだろうし。

 

ビフォー・アフターの露伴先生が楽しそうで良かった。

 

Before

「すみません、じゃあない!真四角に区切られた面白みもない間取り。量販店で買ってきましたって感じのキャビネット!それになんだ、あのガチャガチャと置いただけのCDと本棚。極めつけは、あの『コンビニのくじを引いたらでちゃったけど、べつに興味ないんだよなァ~。でももったいないし、適当に飾っておこうかな?』って感じのフィギュアだよ。どういう神経してたら<亀仙人>と<孫悟空>の間に<ロロノア・ゾロ>を置くんだ?」(8P)

 

After

金策に困って売り払ってから、ずいぶん久々に目にした……こっちは<ビリー・ジョエル>の金ラベルッ!<アビイ・ロード>の左向き版もあるぞッ!?なんでこんな適当に置いてあるんだ……ッ!?」(P27)

 

「ガラス扉もついていない本棚に、ばらばらに漫画が並んでいると思ったが……<シートン動物記>が揃っているのか?冗談だろ?」

(中略)

「ほとんど日焼けもない……!お、<バビル2世>の保存状態もいいッ!<花の慶次>は完全版だが、スペースを考えればむしろベストだろうな……隙間に突っ込まれているのは古いジャンプか?<ドラゴンボール>の連載が始まった号を、そんなブックエンド代わりに使う奴なんているのかッ!?」(P28)

 

「気づかなかったが、このソファ……ドレクセル・ヘリテイジなのか?ぼくとしたことが……<プリティ・ウーマン>に出てきたのと同じソファに座って、今の今まで気づいていなかったって?嘘だろう?」(P30)

 

「……あった……そうか、<ムカシトンボ>だッ!」

(中略)

「図鑑や標本で目にすることはあるだろうが、こんな珍しい種類を、生きているそのままの姿で見つける……それも、こんな都市部の室内でだと?どういう幸運なんだ?いやしかしその前に……ぼくはこいつをどこまで<観察>するべきだ?たしか<絶滅危惧種>だからなァ~~~~……解剖するのはまずいだろうなァ~~~~」(P33)

 

……本当に楽しそうだなコイツ。Beforeでも楽しそうは楽しそう。

 

黒幕である奥さんの行ったヘブンズ・ドアー対策は、「遅効性の攻撃を仕掛け、効果が出る際にはその場に居合わせない」という一切の特殊能力を持たない者の対策としては最上の部類。新規の「その状況に合った命令」さえ回避出来ればどうとでもなる……とはいかず。残念ながら「既に行った命令」は残存し続けるのだ……たとえ対象が場から消えたとしても……!

 

改めてチートな能力やで。「幸福の箱」、恐らく本来は外部干渉完全不可ですからね。箱自体の遮蔽性か、あるいは「幸福」のせいかは不明だが、少なくとも奥さんの悲鳴は完全にスルーされていた。

 

にも関わらずなんで露伴の言動だけ反応していたのか。コレはヘブンズ・ドアーによる「命令」の強度が箱の神秘を上回ったからでしょう。同種の能力の中でも、露伴先生の探究心の現れであるヘブンズ・ドアーは、結構な格上と思われる。

 

一度「止まった時の中でも動ける」とか書いてみて欲しいですね。「世界一巡の加速にもついていける」とか。ワンチャンある。ワンチャンは言い過ぎか。0.3チャンある。実際生身でちょっとはついていけてたらしいし。なんなんだあの人。6部アニメ化が楽しみですね。このシーンで姿を見せるべきか否かは両論あるでしょうが、俺は原作通りに第三者、編集さんの台詞だけでの登場の方が好み。

 

……露伴先生の「幸福」の最終地点の落としどころは、なるほど、というところ。ディ・モールト ベネ。

 

夕柳台

 著者は宮本深礼。

 

静かな住宅街、夕柳台。露伴先生がそこで子供を襲ったという<にたにた笑う黒猿>を追っていたら、住人の老人たちに出会って……という話。

 

露伴先生が防犯ブザーならされます。残念ながら当然。どう考えても不審者だもの。

 

……ジョジョのキャラで子供に防犯ブザー鳴らされないの誰だ?……大体「服装がアウト」に落ち着くので、3部承太郎や花京院、4部の学生組なら……まぁ、多分セーフ。あくまでも「パッと見」なら騙されてくれる。

 

今回の怪異たる「黒猿」出現のきっかけは、要するに「騒音トラブル」という生々しさ。それに伴ってか住民の御老体共の「土地への愛」、また「他所への偏見」も非常に生々しいモノとなっております。

 

とはいえヘブンズ・ドアー対策としては「発動時のシャウトに合わせて自動迎撃」だけだったので、無声発動であっさり対応可能。条件を満たしてしまった老人にも襲いかかるあたり、一種の自立型スタンドに近いのだろうか。8部の「カツアゲロード」という場を本体とするオータム・リーブスが近似例か?アレはアレで生々しいよね。

 

まぁ老人たちもいずれ解放されるとは思いますよ?仗助くんがいつまでも時速60kmで吹っ飛んでいないように、期限を敢えて設定しない場合には常識の範囲内で……。

 

……大丈夫だよね?

 

「黒猿」の正体なんかを考えるに、いくらでも後味悪い終わり方に出来そうだけれども、今回の終わり方はやけに綺麗め。そういうギャップも良いですね。

 

それはそれとして、皆が無闇矢鱈に叫びまくるジョジョにおいては極めて剣呑な怪異ではあった。どうして「閑静な住宅街」であってもこんなのが出てきてしまうのか。動かない世界、絶対露伴先生絡まないところでもこんな調子の怪異だらけですよ。財団はもっと頑張って。SPWの方な。

 

シンメトリー・ルーム

著者は北國ばらっど。荒木先生以外が書いた「動かない」の中では一番好きかも。

 

「アジの開き」のような死体で発見されたとある大学の学長。露伴はその大学へ調査のために足を運ぶ……すると全身シンメトリーの奇妙な男、土山章平に出会う、というお話。

 

まぁ何が凄いかと言えば、土山章平のジョジョキャラとしての完成度ね。

 

「何か」に異様なこだわりを持つ、異様な見てくれのキャラクターはジョジョキャラ度数が高いんですが、その観点からして非常にジョジョキャラっぽい。

 

惜しむらくは常に受け身の体勢だったことか……。出来れば、自分から勝手に語って欲しい。聞いてもないのに語って欲しい。こだわりの末にエゲツない被害を出す辺りはポイント高かったんだが……これら全ての条件を満たすのが、まぁ、メローネなんですけど。本当に滅多にいねえからな、ジョジョキャラの中でもアイツレベルの変態は。

 

「聞かれたら熱意を持って答えるよ」という「中途半端さ」は、ある種奴の正体に相応しいものなのかもしれないけれど。

 

「僕は〈読んでもらうため〉に漫画を書いている」

「わ……私も同じですッ!〈見せるため〉に建物を作っているッ!」

「オイオイオイ、国語の授業苦手か?ぼくは〈読ませるため〉じゃあない。自分の美への理解だとかを求めて〈ちやほやされるため〉でも、ない」

(中略)

「ち……違わねーだろォォ〜〜〜〜ッ!何も違わねーッ!こっちだって〈プロ〉だッ!プライドを持ってるッ!テメーとどこが違うってんだッ!テメーだって自分の作品を読者に読ませてーんだろうがッ!気取って線引きしてんじゃあねーぞボケがッ!」

「違うね。〈読んでもらう〉ってのは無理やり押さえつけたりとか……閉じこめたりして、〈面白いです〉って言わせることじゃあない」(P190)

 

「シンメトリーの文字以外を受け付けない」というヘブンズ・ドアーへの対策はかなり上位の物。実際部屋の仕掛け自体もかなりいやらしく、露伴を「追い詰めた」度合いとしてはオカミサマレベルか。

 

そして、ついにここ十数年の歴史しかない人工言語にまで対応してしまったヘブンズ・ドアー。

 

「これは名作漫画『ピンクダークの少年』に登場するオリジナルの表意文字ッ!『ありとあらゆるスタンドパワーを操り、またその能力を極限まで使いこなせます』という意味だァーーーッ!」

とかやり出す日もそう遠くはない。

 

……ヘブンズ・ドアー、マジで成長性Aなんですよ……あのチート具合で……。

 

楽園の落穂

著者は吉上亮。

 

世界最古の小麦、「楽園の落穂」を露伴と料理雑誌の編集、そして小麦アレルギーの娘さんが取材に行く話。

 

「すなわち、一万年以上のむかしーー人類は、麦によって、むしろ家畜化されて農耕民となったかもしれないんだよ。それで『初めて人類が麦を口にした瞬間』を“ホラー”として描いてみようと思ったんだが、どうだろうか?」(P 262)

 

「農業」とは植物による人類の奴隷化である……という考えは、確か実際に生物学方面であったはず。まぁ、あくまでも考え方として、だと思いますが。お子さん食われまくってるけどええんか?とはなる。種族単位で生き残れてはいるから、考え方としてはアリなのかもしれないけれど。

 

それをただの「考え方」としてではなく、極めて物理的な方法で「支配」する楽園の落穂はまさしく脅威。最後の最後まで安心できない奴でした。根絶できるのかコレ。

 

……まぁ恐らく、一定以上「支配度」が高くなった地域の小株が食った奴の身体改造・意識改革を行えるだけで……一農家の作る分を一度食べたら即アウト、とはならない……んじゃないかぁとは思いますが、果たしてどうなんだろうね。

 

……場合によっては各地ですでに支配されている集落がありそうで怖いぜ。ヘブンズ・ドアーは精神支配系の能力で上書きされちゃうので相性も良くなかった。ボーイ・Ⅱ・マンでやられた例が近いか。

 

あと『反芻』のシーンがエグくてちょっと読み返すハードルが高かったです。いやぁ本人に悪気がないのはわかっているが、キツいっす。良いお父さんなだけにねぇ。

 

 

 

総じて、露伴先生のチート具合が改めて解る短編集でした。

 

チート、という言葉は元々は「不正な改造」を意味し……改造されている訳ではない、素のスペックが高いだけのキャラクターをこの様に表現することには、様々な意見があるらしいが、いや原作の露伴先生より確実に強くなってるんだから、「不正」かどうかはおいといて(公式ノベライズなので)何らかの「改造」はされてるだろ、という事でここは一つ。

 

そしてこれは荒木先生が書いている漫画の「動かない」にも当てはまるのであった。タコに書き込んだり、精子の記憶を読んだり、やや怪しいが無機物に書き込んだりしています。

 

そんな露伴先生が今度ドラマになるそうです。

 

今度というか、今日。明日。明後日。

夜10時からNHKで。みんなで見よう!

 

多分明後日、精子の記憶を読みます。