北欧神話において、ロキとアングルボザの間に産まれた狼。それこそがフェンリルである。
「神に災いをもたらす」と予言されたこの狼は、3度の捕縛を経験する。
鎖、レージングによる捕縛。
失敗に終わる。
レージングよりも強い鎖、ドローミによる捕縛。
これも失敗に終わる。
3度目の正直として北欧神話の「匠」、小人のドヴェルグが用意したのがグレイプニルである。この鎖により、フェンリルは見事に捕縛された。代償にテュールの手が喰われた。
さて、この様な曰く付きのグレイプニル、当然タダの「頑強な鎖」では無い。材料からして異質である。猫の足音、山の根っこ、熊の腱、魚の息、鳥の唾、女の顎髭を材料とし……これらはこの「グレイプニル」を作る為に、世界から姿を消す事になる。
うむ。さすが神話。スケールが違う。資源保護などどこ吹く風。こうでなくては。ただ、どうしても気になる事がある。
……熊に腱って無いの?
腱とは、骨と筋肉を接続する重要な箇所である。熊にはそれが無いのか?初耳だ。「熊 筋肉 標本」で検索してみる。画像を見る。
……ある様に見えるがなぁ。
そう考えると、他のも怪しい。
「魚の息」は、まぁ、あるだろう。我々とは呼吸のシステムが違うが、息が無い、という事は無い。あるにはある。
「鳥の唾」も、どうやらあるにはあるらしい。消化酵素こそ含まないが、唾液腺は存在する。無い種類も居るらしいが、とりあえず世界には存在します。飼ってる鳥だと重要な健康のバラメーターになるそうです。気をつけて見てね。
「猫の足音」は、猫を飼った経験のある人に聞けば一発だろう。あります。歩いている時は確かにあんまり音しないけれどもね、走るとダメだ。賑やかです。アイツが鈍臭いだけかもしれない。
「女の顎髭」。濃淡には個人差があるだろうが……まぁ、あるよね。脱毛とか、色々と苦労されているものね。
…………「無い」材料が「山の根っこ」しか無いぞ。これは流石に無い。と思う。掘りおこした記録が無いから解らんけれど。トンネルとか掘った時に出てきた、みたいな話がないので、多分無い。
「存在しない物で構成された鎖」という、くそカッケェ設定の実態がコレなのはどうなのか。「災厄を予言された半神の狼」という、これまたくそカッケェ設定を制したその実態がコレなのはどうなのか。名前負けも良いところだ。
「存在しない物……いや何種類かあって、完全に『存在しない』のは1つだけなんだけれど……全部比較的珍しい物なのは確かだし……コレで鎖作るだけの量集めるのはめちゃくちゃ大変だったので……フェンリルさんにはそのあたり考慮して欲しいかなーって、鎖」だ。お前なんか。
フェンリルもフェンリルである。実質山の根っこだけで完封されているんだぞお前は。恥ずかしくないのか。
「あの材料の中でどれが一番強度ありそうかって言われたら『山の根っこ』なので、そこはまぁ、別に」
それは確かにそうね。
「熊の腱」と「女の顎髭」は、まだ鎖というか紐状に加工したビジョンが見える……髭はめちゃくちゃ伸ばさなきゃダメそうだけれど……繋ぎ合わせるにしても2cmは欲しい……ドヴェルグの腕を信じろ……が、「魚の息」と「鳥の唾」はどう関与するのか謎である。エンチャント素材か?でも、魔法アリならもっと良い素材使っても良いよなぁ。
ただまぁ、世の中結果が全て、という見方もある。
実際にフェンリルを拘束できた以上、俺がいくらどうこう言ったところで難癖でしかない。それは確かにそうなのだが。
ラグナロク……最終戦争の際には、結局この拘束も解かれ、フェンリルが解放された事は書かなければならない。予言通りに主神、オーディンが喰われたよ。