孤独のグルメ(原作)でゴローちゃんがお茶漬けを食う話が2回ある。
どこまでも個人の印象の話になるが、「孤独のグルメ」という表現で最初に思い浮かべるのが「お茶漬け」である。複数回の登場は納得できる。
ただ、孤独のグルメのお茶漬け回は、なんというか、その。……それぞれの話の流れを見ていこう。
お茶漬け回その①は、下戸の井之頭五郎には珍しく、「どうみても居酒屋」という店で繰り広げられる。看板の「お茶漬け」の文字で、五郎の脳裏には以前見た小津安二郎監督、「お茶漬けの味」が想起され、釣られたように入っていく。
いくのだが、いきなりお茶漬けというのも変か、と考えた五郎、「あたりめ」と「ハムエッグ」をまず前菜として注文する。
酒が吞めないのでとりあえず、のメニューに苦心するのは解るが、それはそれとして、絶対もっと他になんか良いのあっただろ。本人が美味しく食べられているならそれで良いのだが。
「なにしてるんだ 俺はお茶漬けをさらさらって食べて帰りたいだけなのに」
本人が疑問視したらもう終わりなんだよな。
さてそんな五郎の前に二人の客が現れる。仕事帰りのサラリーマン、上司と部下だ。二次会だろうか。少なくとも上司には既に酒が入っているようにも見える。さて上司が何をしたか。アルハラである。無理やり部下に飲ませようとする姿勢に、五郎の顔が渋くなる。
「あの 水で……」
「なに子供みたいなこと言ってるんだ ほら一杯いけ!」
「あ もういいですこんなに飲めないです」
「なんだこればっか 飲め!」
「うう」
「ほら飲め!」
「すいません もう……」
こんなやり取りに耐えかねた五郎は止めに入り、「関係ないだろ」と言われれば、まだ食べてもいないお茶漬けの代金を含めた会計を済ませて店を出る。
「気分が悪くてお茶漬けさえ食べる気にならない」
「ごちそうさま お釣りは良いです」
合間に「食」に関する姿勢を覗かせながらも、店を出る五郎。だが上司は態度が気に入らないと、追いかける。そして、五郎の襟元に手を伸ばし……。
締め上げる!
そのまま固めて、投げる!
「見てください これしか喉を通らなかった!」や「それ以上いけない」、「アイツ あの目……」で有名な回、よりも怒った五郎の一側面が垣間見える、印象深い回であった。敢えて書かなかった、「ものを食べるときは……」に相当する名言はこの回にも登場するので、是非。
……お茶漬け?……食えてないよ?喧嘩したんだもん。たぶん、出禁くらってると思う。先に手出したのは向こうですけどねぇ、店先で喧嘩しちゃあねぇ。帰ってからイカの塩辛茶漬けを食べました。
お茶漬け回その②は、お茶漬け回ではない。煮込み回である。
煮込みを食った店のメニューに「お茶漬け」というのがあり、五郎はそれが気になっていたのだ。煮込みは旨かった。汁気の多い料理なのに平皿に盛るから客が皆若干こぼしているのが気になったが、味は良かった。ストイックな点も良い。ならばお茶漬けも期待ができる。
「となるとうんと腹を減らしていって ごはん小にして煮込みのあとに頼んでみるか」
こうして五郎は再びその店に向かったのである。孤独のグルメには珍しい、「リピート」である。再度その店に陣取って、今回はスッと「お茶漬け」を注文した五郎の前に現れたのは。
……これは書くか。
「––後日俺は本当にそれを実行した」
「驚いたことにただの水谷園のお茶漬け海苔が平然と出てきた」
……一応、醤油ひとたらし、ごま塩ひとふりはしてあるらしいよ。玄米茶で作ってくれるのも、まぁ……ひと手間と言えばひと手間か。並250円、小200円。
……これをズズーッと啜る五郎の背中で、この物語は終わるのだ。
どんな表情してるんだろうか。これを考えると、本当にどうでも良い事なんですが、なかなか答えはでませんね。不満というか、驚きを顔に出してはいないと思う。そういう事もあるか、くらいの感じだとは思うのだが、どうだろう。その背中からは感情が読み取れない。
男は背中で語るものとは言うけれど、言わなきゃ解らないこともあるのだなぁ。
「グルメ漫画のお茶漬け回」としては微妙だが、「読むとお茶漬けが食いたくなる話」ではある。孤独のグルメ、らしいといえばらしいだろうか。