節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

最もガムテに辛辣な「黄色いか黄色くないか」は理解る

【あらすじ】劇場で芸人さんの手伝い、裏方スタッフをしている秋村さんが職場で色々するお話。一人暮らしを始めたり、芸人さん同士が揉めたり、お父さんが大変なことになったりする。

 

 リビングにある引き出しを片っ端から開けても、一向に布ガムテープは見当たらなかった。
 なんでよ。なんで布ガムテープはないのに大きい絆創膏はあるのよ。
 使い勝手の悪そうな銀行ロゴの爪切りも。いやいや、なんでよ。不味そうなのど飴も。いやいやいや、なんでなんですかって。おかしいでしょって。
 呑気に荷造りをしていた土曜18時5分の私は、突然ダムが決壊したように実家批判が止まらなくなった。

(文學界 二〇二二年三月 P94)

 

布ガムテが見つからないでめちゃくちゃキレてる主人公の秋村さん、面白い。キレてる時こういうテンションになる人はいる。連想で次々に不満が浮かんでくるんですよね。

 

こういう人の中にも「とりあえず起点となった部分を解決しようとする人」と「次から次へと手広く解決しようとする人」がいて、別にどちらがいても良いんですけど、個人的には後者の人が苦手。「起点を優先する」だけで「それ以外をどうでも良いと思っているのか!」とか言われるとツラいのです。手広くやる内に怒りの総量自体も乗算されていく傾向が強いし。記録しといて落ち着いたらやろ。

 

落ち着いたら「……まぁ、このくらいは別にどうでもええか……」で流すのが前者の欠点かもしれませんが。後者はそれをみてますますキレるし。無限ループ!

 

私が買ってきたガムテープを見て、竹井さんが「この世に紙ガムテープを欲してる人間は一人もいないから」と言ったことは、たぶんこの先も一生忘れないと思う。

文學界 二〇二二年三月 P104)

 

この話は恐らく文学史上最も辛辣に「紙ガムテ」を表現した小説です。この話よりも辛辣にガムテを評した作品があったらコメント欄で教えてほしい。「文学史って長いなぁ」と言いますから。

 

さてガムテと言えば割れた子供たち(グラス・チルドレン)のリーダー、殺しの王子様ガムテである。

 

彼のガムテは布だったか紙だったか、作中で恐らく明示されてはいない。彼の「割れた心を繋ぎ止める」という結束の意思表示としては布ガムテの方が適しているような気もするが、そもそもの起源は母親からの虐待であり、秋村家(あと俺の実家も確かそうだったか)のように日常で普段使いするのは紙ガムテだ、という事から考えれば、少なくとも初期は紙ガムテであった可能性は高い。

 

彼の紙ガムテが布ガムテに切り替わるタイミング、というものがあるとすれば、それは恐らく自らの中に「『割れた子供たち』は自分がまとめるのだ」という自覚が生まれたその瞬間だろう。基本的に真面目な奴なのだ。真面目に凶悪犯罪をするから手に負えないのですが。

 

……相変わらず純文学の感想を読みにきた人に配慮しない感想であるなぁ。というかコレは感想か。感じて想った事ではあるので感想だ。そうですか。

 

強いて繋げれば、あそこまで辛辣に表現される紙ガムテにも、後半一応の美徳というか、メリット的なモノが見つかるのですが、その際のリアクションは、極道の連中に美徳をみた時のそれに非常に近かったよ。

 

夢澤の兄貴は未成年には殺しをさせない聖人(極道比)だし。殺島は5万人の悪童を救世した「(暴走族)神」であるし。ガムテは至極真面目な(暗殺者集団の)まとめ役ではあるが。

 

「だからといってね」

(文學界 二〇二二年三月 p123)

 

そんなこんなで何が言いたいかといえば、ガムテとの「決着」、良かったですよ、という話。恐らくそこまでは収録された最新9巻の発売は、13日!連載再開ももうすぐだ!

 

 母親は眉を寄せてしばらくこちらを見てから、「芸人と仕事してると、そうやってみんな感じ悪くなっていくの?」と私の返事を待たずに、コンロのつまみをひねった。
「それで社会に出た気にならないで」
 うるさいな、と言いかけた時、玄関のドアが開く音と父親の静かな「ただいま」という声が聞こえた。母親は少しだけ顔を向けて、抑揚のない声で「おかえりなさい」と言った。

文學界 二〇二二年三月 P100)

 

家族に「社会に出ろ」と言われるのは「99枚のブループリント」と同じか……こういうのは敢えて被らせるのか、それとも偶然か。文芸誌初読の自分には見分けがつきませんのよね。まぁ偶然か。家族とは「仲が良い」か「揉めてる」しかありませんで、50%の要素なら25%で被る。被る確率だけなら50%か?まぁ良いや細かい計算は。

 

個人的には「働いて金銭を得ている」のであれば文句を付けられる筋合はないと思いますが。雇用形態としては無職のアンドウさんに多少愚痴りたくなる、そこまでは解るが、秋村さんはまぁ普通に働いているからな……。

 

家庭にはいわゆる「世間」が「親の世間」しか無いから、そこから外れて何かしようとすると、実際には「世間外れ」とはいかないレベルでも「世間外れ」として扱われ、しかも家庭内の「子供」という弱い立場でそれをされるとまぁ逆らうのは無理だよな、という……。いや実際に行動が「世間外れ」の場合も、あるにはあるが……。

 

…………やめよっかこの話。

 

 竹井さんは手のかかる我が子の話をするように、目を細めて言った。
「私が代わりに竹井さんに聞いてくれると思ってるんでしょうか」
「返事しないでみようか」

(文學界 二〇二二年三月 P108)

 

ああ、こういう人はいるわね……。……俺も割とよくやってしまうので、あまり悪くは言えないのよな……。まぁその……実際口にせず頼んでいない場合には、やらなくとも俺は何も思わないので……忙しいなら放置で大丈夫です……やってくれる人はいつもありがとうございます……。直接言えよ、という話なのだがな。これも結局。

 

 二人の横を通ってふたたび楽屋に入り、ケータリングが揃っているか確認するふりをしながら、今きたばかりの芸人が「どうしたんすか?」と、一部始終を見ていた芸人に尋ねているのに聞き耳を立てた。
「高山が昨日のラジオで、売れもせずに劇場にしがみついているダサい先輩って、明らかに時雨さんってわかる話をしたんだよ」

文學界 二〇二二年三月 P109)

 

「ていうか、ただのボケじゃないですか」
 高山がヘラヘラしながらそう言うと、武藤は「それはちがうだろ」と声を荒げた。
「何ムキになってんの、って言いたいのかもしれねえけど。そっちはガチでこういう芸人はダメだって語っちゃってるくせに、こっちが本心でそれは違うんじゃねえの、って言ったら、いやボケだっていうのはさすがにセコいだろ」
「あれのどこがガチなんですか。ラジオ聞いてないでしょ、聞いてないのに言わないでくださいよ。笑いにしてるじゃないですか」
「表で言ってる時点で隠せてねえだろ、冷めてるぶんなよ、気色わりいな」

文學界 二〇二二年三月 P110)

 

コレもこういう誤魔化し方をする人は居ますわね……。ネットでもたまに見るか。コレはやってない。やらないようにしている。はず。

 

こういう場合は、複数の候補が取れる言い方をして、Aには「Bの事だ」、Bには「Aの事だ」、と答えてお茶を濁し……え、AとBが話している?なんなら同時に聴きに来た?……対ありでーす……。……まぁまず「やらない」のが一番スね。でも「ボケだ」と誤魔化すのは度を越してダサいのでやらんですよ。それをやるなら普通に怒られます。まぁ真面目に言ったわけではない旨を初めに示した上で相手がキレてきたらそれは何か言いたくなるかもしれないが……コメディアンという立場さえ示しておけば何を言っても「真面目ではない」扱いをされるのかといえばそれはそれで違って…………。

 

(……書き溜めを熟成させていたら思いの外タイムリーな話題になってしまってどうしよっかなコレ、という表情)

 

…………やめよっかこの話。一朝一夕に答えが出せる問題じゃないですよ。アレとコレではまたレベルが違うから対処も違うけどな。

 

私も常日頃、「王道じゃなければなんでもシュールで片付けるのってどうなんだ」と思ってはいるが、代わりになる言葉は「不思議」しか持っていないので、声を大にして否定することはできない。

文學界 二〇二二年三月 P112)

 

解る。

 

……なんだろう、純文学に俺は文学性や芸術性ではなく……「あるあるネタ」を求めているのか……?

 

「『文学性』とか『芸術性』とか単語としては知っとるけど意味は解らんのでそもそも求めようが無いのよ」

 

……それはそう……。

 

最近ではケモ夫人にこのような感想を抱いています。ケモ夫人ではメイズナースさんが好きです。能力バトルについて語りたいですね。本人は能力バトル漫画の駆け引きがめちゃくちゃ好きなのに、駆け引きもクソもねぇ即死系強能力に目覚めてしまった悲しきモンスターよ……。

 

「勝ち負けです。人って、やっばりいろんなものに勝ってる姿を見てファンになるんです。そしてファンになったら、やっぱり勝ち続けてほしいんです。ウケ続けてほしいんです。全然結果がでなくても、漫才を見れたらそれでいいって思ってくれてるなんてのは幻想で、その芸人が売れたいって思っている限り、売れなかったら同じようにファンも傷つくんです。だから今日は、時雨さんが数少ないファンの気持ちを考えるなら、しっかりと漫才をしないとダメだったんだと思います。出ないと本当にファンはいなくなります」

文學界 二〇二二年三月 P117-118)

 

……コレも解るな……。

 

やはり競争においては「推し」には勝って欲しいのですよね……いや短期的には「この勝負で勝つのは解釈違い」的な場合もあるにはあるが、しかしそれも長期的な視点で見れば「勝って」いるわけで、まぁなんでしょう、推しが幸せならそれでいい、の延長線上に確かにある考え方だとは思います。故にそこまで強く否定はできまい。

 

まぁ本人がなんらかの事情で勝ちたくないのであれば、それはそれで尊重されるべきだとも思いますけれども。その場合のケースもこのセリフは「売れたいと思っている限り~」でカバーしていて、なんというか、丁寧。

 

「これはハマりそうって思うもの」
「見つけるってほどでもないよ。いろいろ物色してたらなんかビビッてくるんだよね。今これを見なきゃ! って思っちゃう。他と比べてそれだけ違う色にみえる」
「へえ、色が見えるんだ。……じゃあそれは、なに色ですか?」
「なに色って言わ……黄色くないことだけはわかるね」
「黙ってろよ」
「今度の木曜にまた黄色いか黄色くないか話そうね」
「話すかよ」
 言い終わって、奈美は私の顔を見て笑った。
 これは当時クロスがやっていたネタのセリフだ。「黄色いか黄色くないかに重きを置く男」というコントで、他のネタに比べてそんなにウケていなかったが、私たちはなぜか猛烈にハマってよく教室でマネをしていた。

文學界 二〇二二年三月 P 126)

 

黄色いか黄色くないかのタイトル回収。

 

……なぜこの文章を題名に……?

 

……いや、理解る。この話の軸が「『これはハマりそうって思うモノ』をどの様に見つけるか」だとするならば、その判別方法としてコレを題名にするのは理にかなっている。

 

にも関わらず一瞬戸惑ってしまったのは、「この話の軸が【『これはハマりそうって思うモノ』をどの様に見つけるか】かどうか判断しかねる」ためか。勝手な思い込みだが、純文学のテーマについて論じ始めたらいよいよ「ホンモノ」という感じがする。それは俺にはまだ早い。自戒しておこう。正直、「ホンモノ」、なりたいか?という気もするしな。

 

あと単純に「黄色いか黄色くないかに重きを置く男」って何だよ、という戸惑いもあったかもしれませんが、まぁ漫才とかコントとかのネタを本筋だけ抜き出すとわけわからんですからね。コーンフレークかコーンフレークじゃないかに重きを置く男とか、わけわからんですからね。

 

お父さん何やっとんの。これはなんだ、大オチというか、「ほぉ」ってなったから、隠しとこ。

 

「家族と揉める」はブループリントと同じでも、お父さんのキャラや言い争いの勝敗は逆か……そもそもあんまり言い争ってはいないし。

 

読み終わりました。理解る……共感度合いは99枚のブループリントよりも高かったか……作品の出来と「共感度合い」に直接の関連性は低く、そして俺の独断と偏見に溢れた意見である、というのは示した上で、個人的にはこちらの方が好みだったか。

 

やはり「芸人にとっての劇場」という舞台の特殊性ですよね……「売れない芸人が留まる」だけの場所では決してない、のだけれど、しかしそういう「視点」があるという事自体は否定出来ないし、作中では当事者たちでさえもそう思っている部分はあって……そういう特殊な舞台で発生する物語、として、単純に面白かったです。

 

……偉そうな事言っとりますが、劇場行った事無いのよね……最寄りでも県を跨ぐか……?このご時世だと一番影響を受ける業界かもしれないですよね……レジャー施設は全般そうだけど、その中でも特に……頑張ってください、応援しかできませんが……。

 

と、ここまで書いたところでこの小説を書いたのがマジの芸人さんだということを知る。おお……各人にモデルとかいるのだろうか。又吉さんとかもそうですが、芸人もある種「言葉で思いを伝える」職業なわけで、文学適性もある程度あるとか、そういう……まぁ、俺は文学もお笑いも、まだまだ何も理解らんのですが。理解るのは上にあるような、あるあるネタぐらいですよ。