節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

「お前いきなりアウトbot」と読む「N/A」

 

【6/22 追記 単行本化おめでとうございます。読んだのは文學界掲載時なので、引用部のページはそちらに準拠します。】

 

【あらすじ】LGBTQ……には「当てはまらない」女子の話。

 

「生理こないときはタカトシのタカをホーム画面にするといいってやつマジだった」

(P10)

 

良いぞ。極めて質の良い「あるあるネタ」だ。「謎としか言えないようなニセ医療情報」……そしてそれが意外に好評で、ウケてしまっている。そういう状況も、良く目にするようになってしまったか。それにしてもよくもまぁこんな突拍子の無いモノを思いつく。なんか元ネタでもあるのかな……(検索)……。

 

…………はい、実在でしたとさ。マジかよ。

 

いや、あるけどね、そういう、よくわからないこの世のエラーは……特定の社員さんがお茶を入れるとパソコンの調子が悪くなる、だとか……バニラのアイスを買うと車のエンジンの調子が悪くなる、だとか……。今回は「ひとしこのみ」的な、有用なバグなので、運営の神々におかれましては、直さなくていいんじゃねえかなと意見を送りながら、それはそれとして、これが事実かどうかに関しては、私は何ら関与しない。

 

確かめることもできないしなぁ……。不思議なことがあるものだなぁ……。

 

「敬語を使えよお前ら」と返す安住先生の声にも怒りは含まれていない。 安住先生の周りは明るい声で埋め尽くされていた。

文學界五月号 P12)

 

……良いなぁ……。この言葉から「怒り」の有無を判別できる能力、学生の頃から持ってるの、良いなぁ……。俺はこういうの全く判別できないから、謝罪の後ずっと敬語で話して、なんか白けた空気にしてしまってなぁ……。いやマジで出来る人は「良いなぁ……」と思っておりますよ。別に今でも得意という訳じゃないというか、割と今も苦手なのでな。その辺察するのは。

 

……苦手な人間が無理にこの辺り頑張って敬語じゃなく話しかけると、マジで地雷を踏みかねないので、改善の意思は、そんなに無い。

 

「翼沙、 また推し変した?」
「変わってないんよ。増えただけ」
「不純だ」
「は? 死んでほしいんだが」
相手を乱雑に扱う言動は、二人の中等部から育んだ親しさを証明していた。

文學界五月号 P13)

 

例えばこの説明の文章がすっぽり抜けていても、新人賞選考委員の皆様には、伝わるものなんだろうか。一人くらい、盛大に誤読する人はいないだろうか。

 

「『推しを変えるのは不純』としただけで、長年の友人に対しても死を望む。これは作品に描かれる現代の若者にとって如何に『死』が軽く扱われているかを示すと同時に、如何に『推し』に重きをおくかを表しているのだ」

 

とかなんとか。……実際、そういう「乱雑に扱う=親しさの証明」みたいな認識って、ちょくちょく事故を起こしますからね……。軽い接触事故から文字通りの致命傷まで……。まだまだ序盤でコレが出てきた当たり、なんとなく嫌な予感がするけれど……。

 

「彼氏の話していい?」
これは喫煙者の叔父が言う「タバコ吸っていい?」と同じで、承諾を得るための問いではなく、 これからオジロが行うことの宣言だと知っていた。 キャッチボールは求められていない。 ただの壁打ちだから、ぶつかった言葉に「いいよ」と返すだけでいい。

文學界五月号 P14)

 

反語ってそういうものよね。実際コミュニケーションでよくある事例ではあるのだが……この「行うことの宣言」、「ただの壁打ち」という表現を見たとき、一番初めに思い浮かべた問いかけが、「ダメステ良いですか?」だったのは、さすがにちょっとショックだったぜ……。もうちょっとその、まともなコミュニケーションというか、なんというか……。マジの壁打ちじゃないか……。3000超の打点で壁を殴り抜けろ。ホープ・ザ・ライトニング!アクセスコード・トーカー!

 

光属性相手にこれを言われると、やはり怖い。だいぶ古いカードなんだけどなぁ、オネスト……。いつの間にか無制限になりやがって……。ルール改定もありましたが……まだまだ奇襲性は非常に高い。

 

一時期のリンクスでは分断の壁も怖く、マスターデュエルでも安かったんで生成して使ってみたら、そこそこ良い働きをしてくれた。リンクスでは分断対策にあまのじゃくの呪いをピン刺ししていたこともあり、助けられたこともあったような気がするが……おそらくは印象バイアス。たいていは無駄な枠。

 

かけがえのない他人は、まどかにとって特別な意味を持つ言葉だ。 (中略) まどかの想像するかけがえのない他人は、重要度のヒエラルキーの中にはいない特別枠だから、独占する必要も、嫉妬する必要もなかった。 一階席の順番がどう推移しようと、二階にある特等席が消えることはないのだ。何者にも代えがたい、すごくやさしくしたいと思える人なのだから。

文學界五月号 P18)

 

恐らくは「テーマ」になりえる単語であろうな。

 

いやぁ、うん、まぁ、ねぇ……言わんとすることは解るし、それを求めるのも理解はできるし、たぶんそんなものは絶対に求めてないだろうなというのは承知の上で共感も出来るのだけど、その……さっきっから頭の中で北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)がめちゃくちゃ煽ってきよるのよね……。

 

 

「『かけがえのない他人』っていうのはさ、『かけがえのない他人』になろうとした瞬間に失格なのよ。お前、いきなりアウトってわけ」

 

どうしてそんなひどい事言うんでしょうねコイツは。

 

……この元ネタのセリフを、たまに「全フィクション作品における絶対の真理!」みたいなノリで使っている人がいるんですが、まぁ、実際はこのセリフ、相手を煽るためだけのヤツだし、言われている奴は言われている奴でめちゃくちゃな奴だったので、一般論としてはそんなに気にしなくていいんですけども。とりあえず目標として設定し、目指そうとすることは何事においても重要であろうよ。ただそういうことを認識した上でなお、俺の頭の中には北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)が住んでいて、何かを目指す人を見るとランダムにPOPし、煽って、どっかに行きます。不治の病か。

 

俺は当然何かを目指す人に北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)みたいなことは言わないので、脳内の北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)は、俺だけを不快にして、どっかに行きます。まぁ、ブロックできないbotみたいなものだと思えば、気が楽ではある。ブロックはしたい。出来るモノなら。

 

実際このセリフしか言わないやつを指して北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)を北岡弁護士(仮面ライダーゾルダ)とするのも申し訳ないので、今後俺の脳に棲むこいつのことは「お前いきなりアウトbot」と呼ぶ。

 

ううむ、知らん人が実家でリアルな嫌な思いをするの、読後感に困るな。あるあるネタ、で良いのか……?あるあるっちゃぁ、あるある、では、あんるけんれどんも……。……ネタではねえんだよなぁ……それを言い出したら「すべて」がそうですけれどもね。

 

「推しに一生を捧げてて、全財産使って推しにお布施して、推しが死んだら一緒に死ぬみたいな人なら合格するんじゃん。知らんけど。あたしは一応オタクだけど、ちゃんとした、みんなから認められるタイプの、見本みたいなオタクじゃないんよね」

(文學界五月号 P27)

 

実際「合格か不合格かでいうならアンタは合格だよ」としか言えない、こういうオタクは……まぁ、「居る」んですけど……でも自分がそうなりたいか、と言われたら……なりたくはないというか、なろうと思ってなれるものではないというか……うーむ……。

 

「『合格のオタク』っていうのはさ、『合格のオタク』になろうとした瞬間に失格なのよ。お前、いきなりアウトってわけ」

 

……また出やがった……!

 

いやまぁ、これに関しては確かに俺自身もそう思う部分はあるというか。「合格しよう」、転じて「ジャッジに認められよう」、という意識があるならば、それ自体が瑕疵となり得るというか……。

 

ただこの件に関しては、合格なオタクになりたい、なりたくない、という話以前に、「まずジャッジが誰なんだ」という点をはっきりさせなくてはならぬ。誰なんだマジで。俺ではないことは確か。

 

……もしかしてアンタなのか、お前いきなりアウトbot……!

 

注文からすぐにシロノワールが運ばれてきた。円形の分厚いデニッシュの上にうず高く盛られたソフトクリームが鎮座して、その脇で控えめに顔を覗かせたさくらんぼがやけに小さく見えた。
「写真よりデカすぎんか?」
「加工詐欺だねこれは」
翼沙は意を決したようにシロップを上からかけていく。 琥珀色が皿へと零れた。
「写真よりショボいよりはいいのかもしれんけどさ、いいことだからって何してもいいわけじゃないでしょ…… おいしいのが余計にムカつくな。なんだこの店」
「もう来ない?」
「いや、来る」

文學界五月号 P27)

 

……些事ではあるが。……ううん……。……言うか……。

 

……君ら割とネットに触っているようだが、その中の誰か一人でも「コメダ珈琲のメニューが思ったよりもデカかった」ネタに触れた人は居なかったのか?頻出問題、基礎だろう、これは……。

 

いや、違うのか?頻出問題だからこそ、か?自分が出題側に回るチャンスを逃してはいけない、そういう気構えなのか?あわよくば自分が出題したその問題をバズらせようと、そういう魂胆なのか?バズを目指していたのか?ああん?

 

ならば、お前いきなりアウトbot、お願いします!

 

「ネットで複数回、頻出だと判断できるレベルで『コメダ珈琲のメニューが思ったよりもデカかった』ネタに触れた事のある人は『割とネットを触る』レベルを数段超えた『廃人』レベルで、彼女たちはその域に達してはいなかったっていうだけでしょ」

 

……たまにこっちから頼むとこれなんだよな。

 

で、まぁ、その。物語は進みまして、翼沙さんの長台詞。

 

おおぅ……。……おおぅ……。なるほど……いや、まぁ、「ある」だろうな、こういう事例は……。

 

そしてお母さんとの会話にも続くわけだが、このように「事例で対応をマニュアル化・パターン化する」風潮こそが主人公を苦しめる、という訳ですね。なんなら「あなたはこのような部分が嫌なんですね」という風に、「第三者言語化する(たとえ多少的を得たものであろうとも)」事自体、彼女はあまりよく思わないかもしれなくて……すると下手に言及も出来ん。堂々巡りの無限ループじゃ。

 

これは彼女の側にしてもいずれ無限ループにとらわれるだろうところが怖いですね。「マニュアル化されていない対応が欲しい」、「個別の事例として対応してほしい」……という事例への対応がマニュアル化されていないはずがなく、そのことに彼女が思い当たるのもまた時間の問題なのでなぁ……。

 

「会ってほしい」「会って話したら分かることもあるし」「今日は混乱してるなら違う日に直接落ち着いて話したほうがいいかも」「人と人って会わないと本当のコミュニケーションが取れないと思う」「最低限の礼儀だよ」「高校生だとまだ分
からないかもしれないけどこういうところで人間性が出てしまうから気を付けた方がいいよ」
流れは止まなかった。まどかからうみちゃんに渡せる言葉は、もうそばになかった。
ブロックという機能は言葉を失った人にやさしかった。

文學界五月号 P36)

 

そうだな、最善手だ。

 

……いやマジでミノタウルスの皿的というか……「言葉は通じるけれども会話は出来ない」の描写として、かなりえげつなかったですね……。

 

本当は「ボーボボのスピンオフにおいて『最前線にとりあえず天の助を放り投げる』が最善手扱いされており、実際真面目に考えても最善手なの、好き」みたいな話をしたい気もするんだけど……描写がかなりえげつなかったので、天の助がどうこうとか言ってる場合じゃないなって……。

 

「朝、チョコ味のコーンフレーク食べててさ、床にフレークが一個落ちてたから、拾って食べようとしたのね。口の中に入れる直前に、何か変だなって思ってよく見たら、うちで飼ってるウサギのうんちで」
悲鳴のような笑い声を上げて翼沙がのけぞった。 手にしていたガトーショコラがへこんだ。 粉砂糖が紺色のセーターに新雪を降らせた。
「うんちだよ? やっぱ普通に笑うよね。 笑い話のつもりで彼氏にも話したら引かれたうえに『そういう話するなよ』とか怒られて」
「それで別れたん?」
「そう。 まじであいつ、うんち野郎すぎる」

文學界五月号 P38)

 

……どうだろうな……。コロコロコミックのラインは超えてるんですよね……。まぁ結局、食ってはいないようだから、笑い話……かなぁ。食ってたら心配が勝つ。出した直後は無菌らしいですけれども……それは尿だっけ?あんまり調べたくねえよぉ。

 

俺ならとりあえず怒りはしないか。戸惑う。どういうリアクションが求められているんだ?となる。引くか引かないかでいえば、ううん……引かないようにはする。確約は出来ない。めちゃくちゃハイテンションでこの話題を出されたら引く可能性はある。どういうリアクションが求められているのか、余計に解らなくなるためだ。

 

やはり基本的には対応のマニュアル化は助かる。どんどんやってほしい。

 

……途端に主人公が「そんなマニュアル通りの対応じゃなくて、『私』という事例に即した、血の通った、人間味のある対応をしてほしい!」と現場にクレームを入れてくる客に見えてきてしまったな……。

 

……クレームを入れるのは別に良いんだけどよぉ……「マニュアル通りの接客」をしている現場じゃなくて、「マニュアルを作った」本部に言ってくれねぇかなぁ……。あ、その際に「××店の〇〇という店員が……」とかは言わないでいただけると尚のことありがたいです……。

 

「現場はあなた方の作ったであろうマニュアルに間違いなく沿って動いており、私としても現場の皆様に過失は無かったと考えているが、その上で基礎となるルールであるマニュアルに改善できる点があると考え、一つの提案としてマニュアルを作る側のあなた方に話している」というスタンスで改善点を伝えていただければ、恐らく現場が特定され、怒られて、それで終わりだ。終わりだ終わり。

 

……フーッ……落ち着け……ちょっと良くない思い出に囚われ過ぎている……クレームを入れる、改善を求めるのは決して悪い事ではない……その内容を吟味した結果、現場の実情に即さないと判断され、必ずしも思い通りの結果にならない場合がある事さえ理解していただけるのであれば……よし。落ち着いた。

 

「『落ち着いた奴』っていうのはさ、『落ち着いた奴』になろうとした瞬間に失格なのよ。お前、いきなりアウトってわけ」

 

当たり判定が広すぎるぞこのbot

 

あー、あったわー。教室がこういう空気になる時はあったし、「コントか?」みてえなタイミングで先生が入ってくる事もあった。アレはなんなんでしょうね、そういうタイミングでの入室が印象に残っているだけか?実は部屋の前でちょっとタイミングを測ったりしているんじゃないのか?

 

……そして「失言の連鎖」……!失言により冷静さを欠いた結果、更なる失言が生まれるコレは……学校の中にもあったし、もはやネットでは毎日のように……!

 

……やはり「あるあるネタ」を楽しむ、と言うのは、純文学の楽しみ方としてアリだよな。うん。

 

……ううむ。自分が困った際には「マニュアル通りの対応」をしてしまいそうになる、その部分をしっかり書かれると、「そうなるよな」と、好感度が持ち直してくるな……。チョロし。そして最終的に下した判断は……最善手では恐らく、無いが。いいんじゃないですかね。「この言葉」を引き出せる対応は、これしかなかっただろうから。

 

「既読スルー」を初めに悪とした奴、俺はだいぶ嫌いですよ。

 

「わたしに優しくしても、いいことないし、これで復縁するとか、ないですから」
「え?」
「だから、これでほだされるとかはないですから」
「······や、もう新しい彼女いるし。 なんで元カノに永遠に好かれてると思ってるの?」

(文學界五月号 p49)

 

切り替え早ッ。

 

まぁ、アレよ。別に「悪い人」じゃないですからね、この人も。ちょっと「脚本」に人を巻き込むだけで。店員としての対応は、「店員」の立場を超えて丁寧でしたし、相手役の御本人に了解さえ取れば、ガンガンに脚本通り演っていけばいいんじゃないですかね。

 

で。そう言う時にはそう言う対応、と。良いオチだ。

 

 

 

読み終わりました。新人賞がこれ?第一作?レベル高いなぁ。審査員が満場一致だったそうなんで、頭抜けた出来ではあるのでしょうがな。

 

主人公が色々と周りの人との関わり方に困る話、ではあるのだけど、読み終わって振り返るとその周囲に「悪い人」はいないんですよね。(元)恋人も先述の通り悪い人、ではない。困った人ではあるが、ああいう対応が正解の場も、あるにはあるのだろう。今回は無許可で巻き込まれたのでアレでしたが。

 

周囲の人の主人公への対応は、ある種「よくあるモノ」、「自然なモノ」であり、それゆえにむしろ主人公は悩み、苦しむ、というのは、その場合に応じた「よくあるコミュニケーション」、「自然なコミュニケーション」を、「この場合はこういう対応になりますよね?」と普通に読者に受け入れさせることができないと書くことのできない物語でしょうから、これをデビュー作で書き上げたのはすげぇなぁと素人ながらに思います。

 

お話の流れも、細かい描写に至るまで、丁寧で分かりやすく、読みやすい……良いお話でした。俺の場合は途中でなんか茶々を入れてくる変なbotが湧きましたが、ふつうはアイツも出てこないだろうし。

 

だがこの文章を読んだ事が原因で、ほかの人の脳にもアイツが住み着く事はまぁちょっとだけ考えられるので、まぁなんというか、悪いことしたなぁ、と思いますね。これが【感染系ミームオブジェクト】だ。厄介ですね。まぁ実害はないし、多分ほっといたら消えますよ。すまんな。