節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

「キリンが小説を読んだら サバンナからはじまる現代文学60」

「キリンが小説を読んだら」を読みました。

 

 

通年で文學界を読む企画がなくなってしまったので、代わりに読む本を探そう。そういう事になった。

 

今回から読書中にTwitterでメモ的につぶやいており、そこに肉付けしていこうと、そういう書き方をしています。試しにやっているだけなので、すぐにやめるかもしれませんけれども。

 

 

 

 

虚構推理、そういえばアニメ2期が始まったみたいですね。

 

面白いですよ。俺は漫画と小説しか見ていないが、アニメも見てみようと思う。

 

「マジで幽霊だったり妖怪だったりが犯人」の事件が起きて、でも警察とかそういう関係者に「幽霊だったり妖怪だったりが犯人だよ」というわけにもいかないので、なんとか常人の理解や司法が及ぶ範囲で辻褄を合わせよう、というちょっと変わったミステリの作品です。犯人だつって冤罪をでっちあげるわけにもいかないので、割と気を遣う。

 

最近は「本当に幽霊や妖怪が犯人なのか」でさらに一捻り加えてくることもありますが、でもまぁ世界観的に「いる」のは確かで、それが事件に色々と絡んでくるわけですね。……鋼人七瀬(たぶん1期メインでやっただろう事件)、とにかく長い割に話の7割くらいがネットでのレスバなので、正直2期から入るのも全然アリなのでは、とは思う。

 

ちょっと変わったスタンスの作品なので、丁寧なチュートリアルとしては全然アリだろうけれどもなぁ。それはそれとして話に動きがあるか、画的に面白いか、と聞かれたら、それはそれで何も言えん……。電撃のピノッキオとかみたいにバトル特化のお話だと、今度は推理成分が薄くなるので、そこはなかなか塩梅が難しいところ。個人の好みは人それぞれ。

 

 

グラスホッパー伊坂幸太郎)に鯨、という殺し屋が出てくるんですね。

 

伊坂作品にたまにいる「能力者」だ。視線を合わせた相手はなんか死にたくなるぞ。この能力を使い、標的に自殺を強制させてきた恐るべき殺し屋である。

 

で、この人は「今まで読んだ本は『罪と罰』しかない」っていうのが特徴なんですけれども、あるとき標的が同じ『罪と罰』の一説を引用したことで、「自分の同類か」と勘違いし、その標的を取り逃がしてしまうんですね。鯨さんは凄腕の殺し屋として有名なんですが、そんな鯨さんの唯一とも言っていい「仕事の失敗」なわけです。

 

その一節が、この本でも紹介されていた、という意味のつぶやきですね。まぁ多分有名な場面ではあるからな。

 

「いますぐ外へ行って、十字路に立ち、ひざまずいて、あなたがけがした大地に接吻しなさい、それから世界中の人々に対して、四方に向っておじぎをして、大声で〈わたしが殺しました!〉 というのです」(工藤精一郎訳)

(キリンが小説を読んだら サバンナからはじまる現代文学60 P27)

 

細かい部分は違いますが、たぶん編集というか翻訳というか……そういう違いでしょうね。

 

 

ホットサマー・マーサのドラマ版を見ましたか?

 

面白かったですねぇ。怪異と危険人物の間になんの関係もないのが良い。

 

そのうえで「最も岸辺露伴を怒らせた」のは、その2人のどちらとも違って編集さんでした、というオチも良い。怪異はちょっと関係しているか。

 

御住職は原作でマジでああいう話し方をする人たちです。改変に伴いセリフの量は増えていた。四つ辻がどうこうっていうセリフもオリジナルかな。妙に雰囲気があってよかったのではないかと思う。

 

ちなみに「動かない」は割と話ごとに設定がパラレルっぽかったりするのですが、バキンちゃんは別の話……「ドリッピング描法」でも登場したので、おそらくは今後もレギュラーとして登場するものと思われる。ワンちゃんファンにもご安心だ。

 

……「荒木作品のレギュラー入りをする」ことが本当にワンちゃんファンにとって良かったのかどうか、それは諸説ありますが。

 

 

これはP46で紹介されていた伊坂幸太郎、「アイネクライネナハトムジーク」について思った事ですね。

 

面白く読んだは読んだのだけれども、正直少しパンチが足りなかったというか、やはり殺し屋なり能力者が登場するなり、あるいは事件の1つでも起きてほしかった、というのが感想になってしまう本作であるが、この本で紹介されているような「ローカル・ローテク賛美*1」という形の読み方は俺が一人で読む限りにおいて思いつかなかったので、「他人の感想を読む」ことの楽しみはまさにこれだよな、と改めて思った。

 

 

記録。

 

宮本輝「骸骨ビルの庭」

松浦寿輝川の光

古井由吉「辻」

長嶋有ジャージの二人

 

 

 

「それでは先方に連絡を取らせていただいて、急いでお電話かメールを入れさせていただきます」

相手に対して少しでも丁寧さや敬意が伝わるように、失礼だと言われないように、頑丈な敬語のよろいをいくつも言葉に着せて、二重敬語と言われようが全くかまうことなく、気がつけば「させていただきます」を連発するような言葉遣いを、両親や祖父母から私たちは教わったでしょうか。

(キリンが小説を読んだら サバンナからはじまる現代文学60 P65)

 

……このレベルだと「行き過ぎて逆に嫌味に感じる人」とかもいるからなおさら難しいですよね。最悪のポイントは「嫌味に感じる人」は別にこの表現が誤用だと判断して怒っているわけではないところで、なんで怒っているかというと、これは「嫌味に感じた」からです。正しい表現に訂正しても……怒らないわけではないのである……!

 

 

ガルガンチュアとパンタグリュエルは確か、世界文学大図鑑、で俺は見たんですね。実際に読んだことはないです。

 

 

zattomushi.hatenablog.com

 

確かこの本で紹介されているガルガンチュアとパンタグリュエルの引用部が、「多量の尿」に関する記述……だったような気がするなぁ。今手元にないのでアレだけれども……今度機会があったらちゃんと調べておこう。

 

で、この本でもガルガンチュアとパンタグリュエルについて取り上げられております。なんでもこの本の原文にある「詩」を、仏文学者の渡辺一夫氏が漢詩の形で訳し、また宮下志郎氏も同じ詩を新訳したところ、1965年、2013年にそれぞれ読売文学賞を受賞した、という事でした。どんな素晴らしい作品だったのか。これだ。

 

先日脱糞痛感
未払臀部借財
同香而非同香
濛気芬々充满

(キリンが小説を読んだら サバンナからはじまる現代文学60 P72) 

 

……これが1965年の渡辺一夫氏、漢詩の方ですね。で、2013年、宮下志郎氏の詩がこちらです。

 

先日、われ脱糞しつつ
わが尻に残りし借財を感ず
その香り、わが思いしものにあらずして
われ、その臭さに撃沈さる

(キリンが小説を読んだら サバンナからはじまる現代文学60 P72) 

 

……まぁ。おそらく、というかほぼ間違いなく「原文」からして大便の話をしているのは、間違いないので……。そこに関するコメントは差し控えさせていただく。多量の尿の話をする名作も、大便の話をする名作もあっていい。雨の中傘をささずに踊る人間がいてもいい。自由とはそういうものだ。

 

 

高橋源一郎の小説 『日本文学盛衰史」は「近代日本文学」の黎明期を追いかけ、それによってこの作品自体が文学史に位置を占める傑作。全体がパロディー仕立てで書かれている。一見文学史に沿った文脈に突然、現代の風俗が挟まれる。夏目漱石森鷗外に「たまごっち」をねだったりするのだ。

(キリンが小説を読んだら サバンナからはじまる現代文学60 P84)

 

日本文学盛衰史、の紹介文にて。

 

いわゆる作家をはじめとする「歴史上の人物」が実はクズ(あるいは聖人)だったみたいなエピソードはどうしても歴史に残るものだが、啄木さんはその中でも頭一つ抜けて有名になってしまった感が強い。

 

やはり「働けど」の句からなまじ清貧なイメージがあるせいで、ギャップが過度に生まれてしまっているのだろう。働け。

 

 

……書いてしまうと、P92、中村文則「掏摸」についてです。

 

……去年の夏ごろ、一度積読を整理したのだが……。

 

zattomushi.hatenablog.com

 

……あれ?「掏摸」はどうしたっけ?

 

まだ家にある……つもりでいたが。何を減らし、またこれ以降何が増えたのか。脳内でのアップデートがいまだに済んでいない。

 

 

記録。

 

川上弘美「大きな鳥にさらわれないように」

高橋源一郎日本文学盛衰史

金原ひとみ「アタラクシア」

筒井康隆朝のガスパール

中村文則「掏摸」

 

 

記録。

 

吉田修一「怒り」

 

 

記録。

 

佐伯一麦「空にみずうみ」

池澤夏樹「真昼のプリニウス

阿部和重シンセミア

 

 

 

というわけで読了です。面白そうな本がたくさん載っていてよかったです。

 

まぁプロが書いている以上当たり前といえば当たり前なのですが、下手な読書感想文のようにあらすじだけだらだらと続け最後に「面白かったです」みたいにするだとか、あるいは本の内容そっちのけでひたすら自分語りに終始するとかではなく、ネタバレなども避けながら、かなり「内容」の読み方について書かれているので、実際に本を読む際にも参考になりそうだと思いました。

*1:賛美、というのも過剰に『そうでないものを軽蔑する』みたいなニュアンスが出てしまってあまり好きな言葉ではないけれども今回はわかりやすさ優先で……本書でそういう表現がされているわけではない