節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

時を超えて海を越えて、好き勝手言われる彼らに口は無し「上野ミイラ展」

少し前の話だが、上野にミイラを観に行ってきた。以下、誘った家族・友人の反応。

 

「え、嫌だ」

「気持ち悪い……」

「なんで金払って死体見にいくの?」

 

……という訳で1人で行って来た。いやあ、趣味の良い家族・友人を持つと苦労しますわぁ!インスタでも映えてろ!

 

 

 

さて先程はただの嫌味でそう言ったわけではなく。実際インスタ映えというか、展示物の写真撮ったり、あるいは「展示物を見ている『私』」の写真撮ったりが目的の人が行くと非っっっ常に嫌な思いをすると思い、その忠告も兼ねている。

 

なぜって全面写真撮影禁止だから。コッソリ撮影すると巡回している係員さんに「コラっ」て言われるし、仮に隙を突いて撮影してSNSに上げると皆に「コラっ」て言われるのでやめましょう。

 

余談ながら上野博物館、この特別展とは別に「ミイラ」を、実は常設で展示している。日本館の2階の「日本人と自然」、その奥の方にひっそりと「彼女」は眠っている。江戸時代の女性である。

 

彼女の説明文は名文だと思うので是非足を運んで読んで欲しいんだけれども、かいつまんで言えば「学術資料・研究材料としてめちゃくちゃ重要だし貴重」、「でも人様のご遺体なので丁重に扱わねば」、「という訳で展示はするけど写真撮影とかは禁止ね」という事で多分今回の全面写真撮影禁止もこれと同じ理屈が全体に働いた結果だと思われる。なのでまぁ大人しく従っとけ。

 

というわけで見てきましたが、うん、まぁ、死体でしたねぇ。案外お子さんとかも多くて……写真撮影用のコーナーが離れにあってね、棺の中でミイラになれる感じの奴なんですが。まぁ元気そうで。テンション高く棺桶の中に突っ込んで行ってました。

 

あとはカップルで来てる人もいたな……ケッてなったけれど(後述)。

 

印象に残った物を書いていきます。

 

下腿部を交差させた女性のミイラ

 

プラハの画家、ガブリエル・フォン・マックスのコレクションの中から発見されたミイラ。人類学への興味、関心が深かった彼の創作意欲を支えたのだろう……と偉そうに語るのも気が引ける。不勉強な事に、彼の名を此処で初めて知ったもので。

 

「ミイラをコレクションしていた画家」という印象が一番初めにあると、どうしても先入観からか、描かれた絵まで暗く感じてしまう。実物を見ればまた変わるのかもしれないが。

 

さてこの女性のミイラは実に多くの副葬品と一緒に展示されていたのだけれど、今回の展示で調べたところ、手の中に「乳歯」を握り込んでいるのがわかったそうで。樹脂で作られた模型とともにその旨が掲示されていた。

 

握り込め度合いにもよるだろうが、恐らくガブリエルさんはこの事知らなかっただろうな、と思うと、謎の感慨があった。所有者ですら知らなかった事実がこうして全然知らんだろう外国の地で明かされているのですよ。どこか背徳感がありますね。

 

 

 

 

 

女性と2人の子どものミイラ

 

自然に出来たミイラ。死んだ環境のせいで結果的にミイラになってしまったタイプ。死後も家族の絆は永遠なのだ……と語れば良い話っぽく聞こえるが、子供1人に関してはどうも「後付け」らしい。時期が1人だけ違うそうな。

 

……どういう事?

 

……だから、こう……この「女性と子どものミイラ」が初めにあって、誰かに発見されて……近くで子どもが1人で死んで、哀れに思った「誰か」がくっつけて放置してたら1つになった……?

 

……「誰か」なりの優しさなのかもしれないが……美談とは言いたくない。というかまぁ、美談では無い。「女性と子ども」の段階なら、どうも同時期に死んでるみたいだから親子かそれに順ずる関係なんだろうが、後からもう1人来たらキマズいだろ。子どもだから邪険にするわけにもいかんし。

 

それに「誰か」の精神状況もおかしいしな。

 

「この子は1人で死んでしまった……かわいそうに……。ところでここに女性と子どものミイラがある。……くっつけて、放置!」

 

うむ。美談では無い。普通に弔ってくれ。サイコパスの診断とか受けてみるのもいいんじゃないでしょうか。あれ“本物”はなかなか見つけられんがな。アイツら誤魔化す系のスキルがやたらと高いから。

 

 

 

「生贄」のミイラ

 

子供のミイラ。神への供物とされた痕跡がある。

 

「生贄」とするためか、亡くなる1年ほど前から豪華な食事と、幻覚作用のある薬を服用させられて……自発的にやった可能性も無いではないか、していたようだ。

 

……遥かな未来の異国から一方的に「野蛮」と認定する様な真似はしたくないが、この辺りでお子様連れの親御さん方が嫌な顔になっていたのは、少しばかり……誤解を招く言い方にはなってしまうが、嬉しく思った。

 

 

 

チャチャポヤのミイラ

 

麻袋に詰められたミイラ達。顔がデザインされた刺繍はやたらとユルいデザインで、コレの腕枕とかもお土産コーナーに売っていた。買おうか迷った。高いからやめた。

 

しかしCTスキャンをしてみると、まぁ中にはシッカリとご遺体が入っているわけですね。レイバンバのご遺体なんかは「肺が石灰化しているからこの人は多分結核」なんてレベルで生前の様子が明らかになっている。まぁ今司法解剖の技術とかすげぇからな。驚くべき事ではないのかもしれないが。

 

 

 

ベンジュの棺

 

ベンジュさん(個人名)のミイラ。そう呼ばれている棺があるとかでは無くて、単純に、ベンジュさんのミイラが入った棺とそれに関連する色々。

 

豊穣の神に仕える神官だったようです。黒い肌と顎髭が棺に書かれ、恐らく生前の本人に似せた物だろうとの事。ある程度は美化しておいて欲しいところだよな。

 

 

 

腕を交差している男性のミイラ

 

ミイラにはよくある、あのポーズをしているミイラ。ケースの前で子供達がやたらとざわめき、前を歩くカップルの彼氏側が彼女側に「コレお前好きそうw」と語るこのミイラにはいったいどんな秘密があるのか……。

 

リネン製の男性生殖器模型

 

股間にオチンチンが残っとる!しかも、勃っとる!

 

一瞬ビックリしたけどまぁ、模型でした。エジプトの「死後の復活」を前提としているミイラなんだから、理屈としては「残ってないと困るじゃん」なのはわかるんだけれど。絵面よ。今までそんな事なかったのに1人だけオチンチン丸出しですからね。

 

ちなみに人間のオチンチンは海綿体、肉オンリーなのでまぁ死体としては長持ちしない部位なのですが、犬とかの動物にはオチンチンに骨がある奴もいるので、まぁ保存状況によれば、リネンで模型作らんでも残るかもな。

 

何の話なんでしょうか。オチンチン連呼しすぎだってブログの運営さんに怒られたらどうしようね。とりあえずあのカップルにはケッとなった。彼女よ、嫌なら嫌と言えよ。嫌そうではなかったけれども。ケッ!

 

 

 

グレコ・ローマン時代の子どものミイラ

 

上でも少し触れた通り、エジプトは「復活した時の身体として」ミイラを製造していて、出来るだけ生前そのままの姿を残そうという方針だったのだけれど……どうしても「死体」。損壊してしまう場合はある。

 

このミイラの場合は、右腕が無くなってしまっていて。どうすっかなと困ったミイラ職人さん、その辺の大人の死体から右腕を奪ってくっつけちゃった。だから右腕が体に比べてやたらと太い。

 

まぁ何というか、それで良いのか、と思いますね。

 

 

 

ネコのミイラ

 

エジプトの人は猫大好き。どのくらい好きかというと、古代エジプト文明と戦争していたペルシア軍が、盾にネコをくくりつけて戦ったら大苦戦しちゃったレベル。まぁ字面で見るとギャグだけど、実際には当時の宗教関係とか絡んでくる割とデリケートな問題なのですが。

 

そんなエジプトだから当然ネコの死後の安寧や復活も願う。展示されたミイラは……「ミイラになってもネコは可愛い」と言えるほど俺は極まってはいない事がわかりました。ミイラだから気持ち悪いとも言わんけど……造形が……言われなきゃネコってわからんもん。

 

「ガーゼの猫耳が生えたコケシ」だもん。

 

 

 

ウェーリンゲメン

 

ヨーロッパの泥炭地で発見されたミイラ。その特殊な環境のせいで偶然ミイラになってしまった。2人組で手を繋いで眠るようなその体制からは、ロマンチックな妄想も生まれたけれど……名前をよく見てください。ウェーリンゲメン。メン。Men。Manの、複数形。

 

そう、2人とも男性だったのです……!……まぁこの御時世ですし、何の問題もありませんね?ミイラにも多様性が求められる、そんな時代が来ているのだ。

 

真面目に。案外その辺りの事情が泥炭地で2人眠る原因になったのかも知れんから、あんまり茶化せないよね。

 

 

 

イデ・ガール

 

1897年発見。近年3Dプリンタで生前の顔が形となった。凄い時代になりましたなぁ。

 

「人の遺体」だという意識を持ちながら今回観察するようにしようとは思っていたんですが、まぁしかし実際「生前復元図」を見せられるとかつて同じ様に生きていたんだなぁ、と改めて実感してしまいますね。

 

没年18歳。軽く手を合わせている人も何人かいました。この企画展でそれをやりだすとキリは無いのですが……まぁ気分の問題。私も邪魔にならない程度に。日本式ですまんな。

 

 

 

アンナの頭蓋

 

「薔薇と十字」が描かれた頭蓋骨。

 

きちんと宗教的に謂れのある紋様であり、存外に由緒正しいものなのですが、まぁ見た目は完全にヴィジュアル系バンドのアルバム写真。

 

海洋堂がやたらクオリティの高いガチャガチャを出していました。500円で中身ランダムは少し怖いからやらなかったけど。

 

 

 

本草学者のミイラ

 

「柿って防腐効果凄いんだよ。だから死ぬ前にめちゃくちゃ柿食って……肌に柿の汁塗ってもらってから埋めたら……死体、腐らないで残るんじゃねえかな?うん、俺死ぬ時はそうしてもらうから、時間が経ったら掘り起こしてみて?」

 

やった。そしたら。出来た。

 

まぁね?この企画展に来て、それなり以上に楽しんでいる身ではありますがね?やはり興味本位で人様の死体を眺める事に、モヤモヤとした物が無いわけでは無いのです。

 

しかしコイツにそれは覚えなかった。むしろ、眺めなければ失礼に当たる。ジックリと見物させていただきました。すげぇよアンタ。子供が真似しようとしてたもん。親御さん滅茶苦茶困っていたけど。

 

 

 

弘智法印 宥貞

 

即身仏」という物ですね。瞑想をしたまま衰弱、餓死にまで至り、結果として仏に至る。話に聞いた事はありましたが実際に見るのは初めてだ。

 

「迫力」というか「気」に溢れていまして……貴重な物だと解ってはいても、こちらはあまりジックリと眺める気にはなれず。やはり神の座にあるものを観るには、それなりの覚悟がいりますね。

 

ただやはり。その姿は軽く見て、拝んだだけでも目に焼き付いております。手を組み、顎の下、頬の近くに持っていったその姿……なんか女子がよく話してる最中に机の上でやるポーズ……。……しゃあない。姿勢に気を使う余裕なんてあるはずないんだから。可愛いポーズの何が悪いんだ!

 

 

 

……特に印象に残ったのはこのあたりでしょうか。

 

まぁねぇ、嫌な人は嫌でしょうが、しかし「死体」を「面白さ(Interesting)」目的で見に行ける機会なんてのはなかなかありません。

 

「面白さ(Funny)」を求めず、マナーを守れば多分、恐らく、きっと、罰も当たらないでしょうから、興味のある方は是非どうぞ。案外、死生観に影響が出るかもしれません。彼らに口はありませんが、それでも「何か」は語るのです。

 

とりあえず柿を食いましょう。