節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

ネットで踊るならせめて彼らのように「Vanilla Fiction」

……こんな題名だけどね、多分「へぇ。Vanilla  Fictionってどんなお話なんだろう?」とか、「ほう。君もVanilla  Fictionが好きなのか」とか、そういうご期待には答えられません。後者は「何か」を察しているかもしれない。その不安はおそらく当たりです。ブン殴られるかもしれない。ゴメン。でも殴ったら通報な。しょっぱなからネタバレ注意です。

 

いや、Vanilla  Fiction好きですよ?エリちゃん可愛いし、ドラジェくんとか最高ですよね。終わり方も佐藤先生っぽさは出ていたし、鞠山周りの中盤〜終盤の描写なんか真面目に泣くよね。

 

ただ感想を書くとなると少し困る部分は出てきて……春夏秋冬もキャラとしては好きだけど××××はやっぱり雪彦、もしくは××××が良かったとか、関東鬼人会(特に鯉池君)もキャラとしては好きだけど×××しようとしてた連中(というか作中ではおトボケ気味なだけで割と凶悪犯)にしては因果応報がちょっと弱いんじゃねーの、とか、終わり方もあれだけ「××××××」以外の物を求められてきた佐藤先生が出す物としては「結局」なのかよ(その辺り含めて好きな終わり方ではあるのだけれど)、いやでもアレは××××××なのかなどうなんだろ(その辺りも含めて好きな)、そもそもちょっと唐突な感じが(その辺り)みたいな……少しまだ飲み込めていない部分はあって。全体として好きではあるのだけれど、言語化が難しい。

 

なのでまだ言語化がしやすそうな「好きなシーンの紹介」を書くという試みである。そこでそのチョイス!?、と君は言うだろうか。……わかる!でもやるんだよ。すまんな。というわけで状況説明です。その前に一巻あらすじと商品説明だ!全8巻で完結済みだよ。

 

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『魔王』『Waltz』の大須賀最新作!! 「どう考えてもバッドエンドにしかならない」魔王』『Waltz』で伊坂幸太郎とタッグを組んだ俊英、大須賀めぐみが今、待望の完全オリジナル作品に挑む!!とある小説家に突きつけられた「タチの悪い冗談みたいな現実」の行き着く先は!? 1ページ先で何が起きるか、予想も出来ない相次ぐ衝撃を目の当たりにせよ!!連載開始当初から待ち望まれたコミックス第1巻、ついに発売!!

 

 1巻カバー裏より引用

 

さて状況の説明だ。

 

中盤、主人公の佐藤先生の手によって、敵キャラ(つっても立場的には「もう一人の主人公」)の鞠山雪彦の悪行がネットで流出・炎上しちゃうんですね。この悪行は別に佐藤先生が捏造した(流出の切っ掛けはちょっと手加えたけれど)とかではなくて、ガチのマジ悪行。言っちゃうと悪徳警官なんですよ雪彦。伊坂ファンだと城山(オーデュボンの祈り)とか連想するかもだけど、さすがにアイツまでガチではないです。冤罪ふっかけたりヤクザと手組んでたりするだけの、普通の悪徳警官。むしろ城山が何なんだよ。怖すぎるよねアイツ。

 

で、そんな雪彦には義理の息子がいます。それがドラジェ君。本来漢字表記だけど変換で出せない。そういう感じのお名前。多分テストの時とかすげー大変。これがまぁ、雪彦に全然似てない良い子で、見た目も可愛いショタっ子でねぇ。雪彦も初めは色々あったんだけれども、今ではすっかり溺愛してまして、その悪徳っぷりも隠して、良いお父さんだった。けれども、今回の炎上騒ぎでもう滅茶苦茶よ。ドラジェ君は友達にいろいろ言われるし、佐藤先生の実家は物理的に燃えた。

 

で、まぁ、ドラジェ君が誘拐されたり、卑劣な誘拐犯を追いかけるために雪彦が高速道路の中央分離帯ぶっちぎったり、佐藤先生がバナナで無双したり、色々あって、ついに終盤。

 

ドラジェ君含む雪彦の仲間たちがいるホテルが、火事になってしまうんですね。

 

このままではドラジェ君確実に死ぬ、という所で、雪彦は助けにいき、火事の真ん中で意識を失っているドラジェ君を発見するわけです。で、ここを何とか切り抜けて、雪彦はドラジェ君と仲間たちを救出に成功するのですが、雪彦はせっかく救出に成功したドラジェ君もそこそこに、避難誘導や逃げ遅れた人たちの救出に精を出し、最後は意識を取り戻したドラジェ君に止められながらも、炎の中へ消えてゆくのです。この最後の会話とか、本当読んでほしいですね。いいシーンなんですよ。

 

 

 

あ。本題はここからです。

 

雪彦が最後あんまり息子に関わることなく、ある意味での「理想の警察官」を演じていた理由が、実はネットの炎上を鎮静化させ、ドラジェのこれからの生活をまもるためだったんですけれども、このネットのアカウントの描写が個人的にすごく好きなんですね。

 

以下、一部抜粋です。

 

 

 

(猫のアイコン)

ホテルに突入した警察の人全然出てこない。やばいやばい何であんなことできんの?信じられないすごすぎ。自分ヘタレだから絶対できない!助かってください!!助かってください!!ヒーローすぎるだろ!

 

(後ろ向きのおっさんアイコン)

これは佐藤忍が個人的な恨みで佐藤刑事を叩かせた可能性もある。鞠山刑事も素行不良だったようだが、正義感は本物だと証明された。

 

(女子のイラストアイコン)

不良がちょっといい事すると凄くいい奴に見える例の現象だって言ってる奴いるけど、今回のはちょっとじゃなくて文字通り命がけのいい事なんだから賞賛に値するよ

 

 

 

特にこの3つのアカウントが凄く好きで。

 

まず俺は個人的に「ネット住民モブ」みたいなものに左右される作劇、あんまり好きじゃないんですよね。作劇が好きじゃないというか、表現が好きじゃない。……言うまでもない事ですが、だから規制しろなんて言うつもりは毛頭ありませんよ。

 

何かへの杞憂は置いといて、何で好きじゃないのかといえば、ひどく「無個性」だからなんですね。誹謗中傷の時はなんの面白みもなく一律に対象を叩き、ニコニコ弾幕風のCMは「キタ――(゚∀゚)――!!」みたいな顔文字と「【任意のキャラ名】!!」と「【任意の単語】www」で溢れかえる。「そういうもの」の再現にしてもひと昔は離れている。

 

まぁ、言ってしまえば「わざわざネットの外で見るほどの物じゃない」んですよ。そういうものが見たいとき(今までの生涯に於いて無いけど)は、そういう所に行けば良いだけなので。

 

 

そこへ行くとこの3つのアカウントは、それぞれの個性を感じ取ることができます。良い意味で統一感が無い。順に上から行きましょうか。まずはコイツだ。

 

(猫のアイコン)

ホテルに突入した警察の人全然出てこない。やばいやばい何であんなことできんの?信じられないすごすぎ。自分ヘタレだから絶対できない!助かってください!!助かってください!!ヒーローすぎるだろ!

 

「情動」に溢れていますね。多分良い人です。オフ会とかするにしてもあまり警戒はしなくていいでしょう。「!」マークの数や句読点の落ち着きのなさから、思ったままに書いているのが伝わってきます。「助かってください!!」を2回繰り返すのもポイント高いです。「大事な事なので二度言いました」みたいなネタではなく、本当に「1回じゃ足りないとおもったから」そうしたのでしょう。で、3度目を書こうとしてちょっとクドいかな、と思った結果が、「ヒーローすぎるだろ!」なのだと思います。ここの「!」が1つなのに、少しの照れが見えますね。

 

 

 

(後ろ向きのおっさんアイコン)

これは佐藤忍が個人的な恨みで佐藤刑事を叩かせた可能性もある。鞠山刑事も素行不良だったようだが、正義感は本物だと証明された。

 

「アイコン通りの印象」です。なんとなく打ち込んだ際の表情まで伝わってきます。この人のポイントは「それっぽい事言ってるけど的外れ」な所です。「佐藤忍が個人的な恨みで佐藤刑事を叩かせた」というのは、まぁ、正解ではあります。しかし、「凶悪犯として指名手配(もちろん冤罪、少なくともやられた時点では全くの)された」のを、個人的な恨みの一言で片づけるのはいかがなものか。勿論このおっさんはそんな事知りませんが。

 

それに「正義感は本物だと証明された」という文に関しては、もう失笑するしかありませんね。そんな簡単な言葉で片づけるな!正義感一切無いよ、あの人が警官になった理由知ってるか?「喧嘩したいから」だぞ!

 

勿論このおっさんはそんな事知りません。知っている読者がおかしいだけです。「それっぽい事いってる」だけのこの人に失笑した後は、少し背筋が寒くなります。

 

「もしかしたら、自分も同じくらい的外れな事言ってる?」

 

まぁ、しゃあない。知らないからね舞台裏の事は。 見えるものだけが我々にとっての真実です。じゃあ、つって「鞠山って本当に良い刑事なのかなぁ?」っていうのは簡単ですが、そうすると。

 

 

 

(女子のイラストアイコン)

不良がちょっといい事すると凄くいい奴に見える例の現象だって言ってる奴いるけど、今回のはちょっとじゃなくて文字通り命がけのいい事なんだから賞賛に値するよ

 

この人に刺されます。まず覚えるのは安心感です。良かった、「不良がちょっといい事すると凄くいい奴に見える例の現象だって言ってる奴」、ちゃんとこの世界に存在してるんだ。ソイツへの反論でソイツの存在を逆説的に知る現象ですね。何か良い名前があった気もするけど、忘れた。

 

この人の指摘は当たっています。「命がけのいい事」ではある。死ぬ気でやってた。そこは事実。「賞賛に値する」、ここも、事実。しかし「賞賛に値する」とはどんなポジションなのか。これはこの漫画に限らず、日常生活でもちょっと「え?」ってなるよね。俺だけかな。俺なんぞがどういうポジションの人に対してなら使っていいのかな。

 

この人は「逆張り逆張りする人」です。正張りというか、まっすぐには褒めない。反論に対し反論することで、間接的な褒めとする。ややこしいですが確かにそういう人はいるし、ちょっと俺にも心当たりはある。

 

 

 

このアカウントたちに共通するのは、こういう事が実際にあった時、実際こういう人たちが出てきそうだな、と思えてしまう所である。もう一歩進めば、「俺がそうなる」可能性も全然あるだろう。

 

「猫のアイコン」ほどまっすぐにはなれないので、おそらく自分は「後ろ向きのおっさんアイコン」か、「女子のイラストアイコン」だろうが、しかし彼ら彼女らの文面を見た時の第一印象は「面倒くせぇなコイツ」だった。友達に欲しいのは「猫のアイコン」ですね。

 

自戒せねば。自戒せねば。自戒するなら、そもそもネットの情報に踊らされるべきではない。そこを自戒しろ。はいッ!