節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

倫理信じて「忍者と極道」を勧めよう

……「倫理」になんかセンスの良いルビを振りたかったが……俺には無理だったぜ……。モラルとかだとちょっと固いですよね。

 

「忍者と極道」。ごく簡単に言うのであれば、忍者と極道が戦う話である。次に発売する3巻の帯が「クソデカ忍法帖」だそうだが、その通りだ。強い忍者は特異体質で戦い、強い極道は極道技巧(ごくどうスキル)を使う。

 

本作の忍者は「ダークヒーロー」だ。裏社会で悪事をする極道を襲う、何者にも縛られない、己の法にのみ忠実な戦士である。様々な特異体質と研鑽された技術で、罪なき人々を影ながら守護する。

 

一方の極道にも言い分はある。曰く彼らは「孤独な者」なのだと。

 

「古来 極道とは世の外れ物の集合体ーー 社会から孤立し居場所がない… そんな人々に生きる場を与えてきた」

「その極道が今 忍者によって滅びつつある “孤独な者”の居場所が再び奪われる…!!」

(1巻 1話)

 

……極道は忍者に比べれば確かに弱い。だが、彼らには「群」の力がある。仲間達と協力し、支え合い、自分たちの居場所を守るために戦うのだ。

 

誰かが言った。あらゆる戦争に善悪は無いと。互いに自分を正義だと、相手を悪だと決めつけて行動するのみ。それこそが戦争であり、人の愚かさだと。

 

ならばこの戦いも同様なのか。

 

 

決めようか…。忍者と極道、何方が生存るか死滅るか!!トラウマから笑えない少年、忍者(しのは)。表向きはエリート会社員ながら裏では組を牛耳る極道(きわみ)。そんな2人が出会った時、300年に渡る忍者と極道の殺し合いの炎が熱く燃え盛る!(カバー裏より)

 

以下、ネタバレ注意。

 

 

 

「組長(オトン)も忍者に殺された! 女子供10人ぽっち拷問しただけで…血も涙もねえ!!」

(1巻 3話)

 

「国会議員かなんかの一家拉致ってブッ殺していたあの倉庫でよォ…」

(2巻 8話)

 

「(中略)金曜夜(ハナキン)の歌舞伎町1丁目ほぼ全域が崩落…」

「犠牲者は“8万人(ハチマン)”超える見込みだとさ 事故っつか“災害”だね…」

(2巻 16話)

 

 

……まぁ……極道が悪いよ。

 

 本作の極道は凶悪だ。断っておくが、1巻2巻は多分、全然マシな方なんですよ?初めに出てくる「破壊の八極道」……夢澤恒星さんは極道屈指の「良い人」ですから。堅気の人間には殺さないし、部下にも優しい。歌舞伎町地下崩落はやったの夢澤さんじゃないし。

 

「“殺しは二十歳(ハタチ)になってから” …竹本の組長(オヤジ)直伝の“極道教典(ルール)”だぜ」

「未成年はまだ…手を汚しちゃいけねえよ!」

(1巻 7話)

 

……断るまでもなく、極道比においての善人ですけれども。一般的には大悪人。

 

そんな極道の「凶悪さ」について、本作はツッコミをこちらにほとんど任せてくる。戦う忍者は極道と300年くらい戦っているから今更そこについてどうこう言う余地はなく、罪なき民衆は文句の一つも言う暇もなく哀れな被害者となるばかりである。

 

加えて、そんな極道を*1「カッコよく」書く事に余念は無く、また確かに「孤独な者」としての哀しさも*2しっかりと持ち合わせている。*3どこまでも情に厚い極道の姿に*4共感し、*5感動する者もあるだろう。

 

……ツッコまない事であのテンポを成立させているんだな。お見事。

 

これは読者の「一般的な倫理観」を信じていないと出来ないことで、信じられたのならばそれを裏切るわけにもいかない。読んでいる最中は倫理を適度に棚上げして楽しみ、終わったらちゃんと棚から降ろしましょう。降ろした後改めて読み直すのも面白いからさ。

 

俺もなんだかんだで夢澤さんが“長”も認める超絶チート忍者と戦うってなった時は心配したし、その後の「奴は最も最弱構文」……に続く熱い表現にはテンション上がったので、読んでいるとのめり込んじゃいますね。

 

ただの色物漫画ではなく真面目に面白い。相手を「倒すべき相手」だと知らないままに交流する多仲忍者と輝村極道の関係や……3巻以降でメインの敵となる暴走族神(ゾクガミ)の殺島飛露鬼は一人称が「神(オレ)」の、カリスマに溢れた良いキャラである。道を極めし極道技巧は「銃弾舞踏会(ピストルディスコ)」!跳弾すらも操る銃のスペシャリストである。

 

個人的には忍者の“長”……神賽惨蔵が好きですね。特異体質は「全姿全能」!自身の身体を変化させ、様々な人物になりすまし、ほかの忍者の特異体質すらもコピーする!複数同時コピーで合体技も作り出す!遠慮のない暴れっぷりで好みです。正義漢ではあるが、同時に愉悦部のケもある、人生エンジョイ勢の超長生き爺さんだ。

 

まだまだたくさん見どころはあるけれど、絵面のパワーが凄い作品なのでこれ以上は実際に読んでいただきたい。台詞の字面の面白さや強さにばかり注目されがちだけれども、無言だったり言葉少ないコマの「表情」なんかもかなりのものですよ。

 

毎週月曜、「先週」の分が無料で読めるのでそこからでも。課金すれば「今週」の分も読める。あと今なら1話と2話が無料で読める。将来的に読めなくなる可能性はある。気をつけるべし。

 

忍者と極道、その戦いの行末はどうなるのか。最新刊の3巻発売は10/14!「名作漫画のお約束」であるところの野球回(前半)も収録だ!

 

 

……単行本のカバー裏がとにかく不穏なんだよな。アレは電子書籍だとどうなるのかね。明らかにミーム系オブジェクトの作成者なんだよな……。

*1:見様によっては

*2:一部のキャラは

*3:あくまでも身内に対しては

*4:被害に一瞬だけ目を瞑りながら

*5:冷静に考えたら絶対やめといた方が良いけれど