節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

「99のブループリント」のネットスラングだらけな読書メモ

【あらすじ】

FIRE(経済的独立・早期退職)を果たした安藤修。彼はどのように15㎏の金(2億円)を保有するに至ったのか。

 

私と他者とを区別する記号は「アンドウ」であるわけだが、それを主語に置いたからと言って、ゆめゆめ三人称などと思ってはいけない。

(文學界 二〇二二年三月号 P10)

 

名前を「アンドウ」にして文章を綴ることに決めた冒頭。一人称が「名前の女」と「俺様の男」って、根っこは同じらしいですよ。ツェーリドニヒ王子が言ってた。「名前の男」ってどうなんでしょう、「俺様の女」と同じ?

 

……一人称が俺様の女、良いな。すぐには実例が思い浮かばないけれど……。

 

……カイニス(FGO)?

 

いや、でもまて……カイニスは男なのだ……。だがしかし、女でもあるのだ……。微妙なところだな。まぁ男でいいだろ。ホワイトデー礼装にもそうある。カイニスは単純に「俺」だったような気もするが。

 

奮い立たせるや否や、自分の存在が、総体がこのたった十五キロの反応性の低い固体金属に帰せられてしまうのか、と虚しくもなった。得も言われぬ全能感と虚無感とが一つの身体に同居していた。

(文學界 二〇二二年三月号 P11)

 

15㎏の金について、出来るだけ「金だ!黄金だ!Goldだ!Foo!」みたいなテンションじゃなくて、なんというかフラットに表現しているんですが、それにしても金を「反応性の低い固体金属」とするのはフラットなのか、なんなのか。別方向にテンションが高くなっていないだろうか。

 

花火を「こんなものは単なる炎色反応にすぎない」とか言いそう。

 

視界に入る数字をひたすら素因数分解しそう。

 

ドヤ顔で「DHMOを規制すべき理由」を述べて、知らん人が乗っかったらドヤ顔度を8倍にして種明かししそう。

 

脳内の理系像が貧困すぎる。

 

せやな、と応じるアンドウのそれは別に関西出身だからではなく、単なるネットスラングだ。

(文學界 二〇二二年三月号 P15)

 

せやな、純文学で使っていいのか……まぁ、良いか。ネットスラングとしての発祥は、強いて言えばJの方になるんですかね?

 

俺が言われた時に生じるイメージとしては「なんでもいう事を聞いてくれる茜ちゃん」なんですが、これは「発祥」ではないよな……ある程度流行した上で、それを加速させた要因の一つ、くらいだろうか。

 

いずれにせよ父親のように所帯を持ち、ローンを組み、定年まで勤めあげて再任用として年金受給まで働き、その後は何の気兼ねもなく長年公務に就いていたことを武器に友達やかつての人間関係を駆使して地方政治に首を突っ込んで気持ちよくなるということは、それこそ夢物語だった。

(文學界 二〇二二年三月号 P19)

 

わかる(ネットスラング)。

 

ネットスラングは判定を厳しくすると日常の語彙まで侵食していくので程々にするが良いよ。知らんけど(もはや言うまでもなく)。

 

まぁいわゆる「親世代」においてもこんな将来をおくれるのはほんの一握り、という事は解ってはいるのだが、もはや将来の目標として「こんな将来」は成立しないよね、くらいは思ってもいいだろ。

 

実のところあんまり羨ましい訳でもないというか、たとえば実際に地方政治に首を突っ込みたいか、とか言われたら、「いや別に……」となるし。多分気苦労が増えるだけというか……こういう意見の表明ですら「酸っぱい葡萄」的に捉える人はいるのよね。どうにもならんな。

 

 FIREに家族は不要だ、ということは古典だけでなく市場も証明してくれる。
 商品は、全て取引の対象であり、取引の対象であるものは全て代替可能である。故に商品は代替可能である。真の対偶もまた真であるから、代替不可能なものは商品でなく、また前段の対偶をとってみると、取引不能なものは、全て商品ではない、ということになる。

(文學界 二〇二二年三月号 P23)

 

というわけで家族や両親に対してもドライな考え方のアンドウさんですが、しかしそれは家族や両親に対しても「交換不可能な価値」を認めているからだ、というのがいわゆる「守銭奴キャラ」のイメージから外れていて面白い。

 

……いや待てよ?外れているか?

 

このイメージこそネットスラングならぬネットミームじゃないだろうか。俺が「守銭奴」で思いつくキャラ、貝木泥舟とギルド・テゾーロだけど、アイツらその辺りはちゃんと解ってるし……。

 

テゾーロ、その辺りは解った上で「解っていない金持ちロール」がやめられなくなってしまった感が……というのは贔屓目が過ぎるか。好きなんですよテゾーロ。グラン・テゾーロ内においては魚人差別が許されていないんですよ?

 

堂々と「愛も縁も買えるぜ!」と公言していた守銭奴キャラ、具体的に誰かいたっけな……。

 

……マック・ラ・クラノスケ?

 

「過去を支配するものは未来を支配する」と「一九八四年』の中で語ったオーウェルの認識は全く正しい。未来に基点を置いた関係性の認識は、まさに十五キロ、を得るために必要な行動の一つだ。神も市場も、それぞれが為すことを前もって人々の前に、時にその方法は十分でないこともあるかもしれないが、基本的には開示している。過去が持つ未来性だ。未来はいつだって有用性を必要として、現在を服従させる。

(文學界 二〇二二年三月号 P29)

 

金融パート、何を言っているのか解らなくなってきたな。貝木やテゾーロが出てきた(出てこない)辺りはまだ何を言っているのかはなんとなく解ったんですけど。

 

これは俺に金融関係の下地がないからか、それとも文学方面の下地がないからか?……多分文学方面の下地……俗に言えば読解力がないからだな。金融関係の用語がバーっと並んでいる……そういう事ではないので。

 

……経験を積めば解読できるようになるだろうか?

 

……バーナード嬢曰く、の神林しおりさんが、「SFの設定解説パートは作者も良くわかっていない場合があるのではないか」という説を披露する場面があるのですが、あの感覚はSFだけではなく全てのジャンルにおいて常に脳の片隅に置いておきたい。

 

まぁ、この感覚はこの感覚で行き過ぎるとつまらないし「脚本の人そこまで考えてないと思うよ(原作での用法)」になってしまうとマジで恥ずかしいので、何事も程々に、ですね。今回は多分作者さん、解ってやっているし。

 

ただ俺は意味がありそうで無意味な文章でもこれだけ雰囲気があれば好きになってしまうのだけど。無駄に洗練された無駄のない無駄な動き、という文字列はどこで見たのだっけ。ニコ動のタグか?あれも好き。

 

空飛ぶ機械という革新技術ができたとき、人々はまず人々の頭上に毒ガスと爆弾を降らすことを行い、処理能力の上がったチップが出来上がったとき、人々はインターネットでその能力をいかんな
く発揮し、高速で罵り合った。「進歩」と「野蛮」の類似性を提示したのはベンヤミンだったか、あるいはアドルノだったか、あれ? 王様のブランチだったっけ?

(文學界 二〇二二年三月号 P30)

 

ここで王様のブランチを持ってくるセンスとかも、好きなんですよ。ただ実際に王様のブランチが「答え」だと、これは一気にダサくなるので注意が必要だ。何をワイドショーで見た知識をベンヤミンとかアドルノで誤魔化そうとしているんだ、となってしまう。苦し紛れに最後に自白したみたいになってしまう。その自白でさえ誤魔化し気味、みたいになってしまう。

 

結局教養の話になってくるのか。「説得力のある引用」を出来るだけさりげなく織り込むと格好良い、みたいな……。

 

そういえば王様のブランチもバーナード嬢曰く、に出てきましたね。「王様のブランチで紹介された本とガチの書評家が紹介した本を一緒に読むと簡単に『選り好みしない感』を出せる」みたいな文脈で……。

 

……ロクな使われ方してねえな王様のブランチ。……大衆番組としてはむしろ理想的な扱いなのか?

 

母親は事の軽重を区別することが、多分できない。彼女にとって、身の回りで起こることも遠くの世界で起きることも全て同じ地平にあった。OPECの協調減産もドレッシングの賞味期限が切れていることも。この調子だと、仮に明日千代田区辺りが核兵器で焼野原になっても、その話題と排水溝のぬめりとかが同じ組上に載せられる気がする。全てが並列で、全てが同じ重要性を持っていた。父親はもう麻痺をしているのだろう、あちこちに飛び回る話題すべてに短く、しっかり自分の応答をしてやっていた。気温の話題には「じゃあ薄いの一枚用意しておくか」とか、ガソリンの話題には「駅のセルフのところは安いぞ」、といったように。

(文學界 二〇二二年三月号 P37)

 

両親の会話に対する辛辣な評価よ。まぁ、そういう風に思う事自体は、なくもないが。よくもまぁアレだけ飛び飛びの話題に…… 。

 

「身に付くカネってなんだよ。アホみてえに長時間拘束されて使う時間もないカネのことかよ」
 父親は、拳を作ってテーブルを叩いたが、音は思ったよりも起きなかった。食器類のいくつかがほんの少しだけ宙に上がって落ち、金属音が響いた。
「お前はまだ子供だ。株だかなんだか知らないが、自分のできることで世の中に少しは貢献してから物を言え。お前は少しでも社会のインフラを整備したか? 制度を維持しようとしたか? してないだろ、え?お前がやってるのはな、タダ乗りなんだよ。泥棒と一緒なんだ」

文學界 二〇二二年三月号 P39)

 

この辺りはいわゆる「親世代」との対立デスネー……いわゆる「稼ぎ方」に対する……俺もチラッとブログやっている事を言ったら、「アフィリエイトか!アフィリエイトなのか!」と言われました。やってねえよ。

 

……アレ、興味があったのかな?

 

まぁ自分でやれ。DIY

 

個人的にはお父さん側の話も解るというか、むしろ俺は考え方としてはこちら側なので、この辺のアンドウさんにはあんまり乗れませんでした。

 

持たざる者が目指すFIREにおいて、「ワンチャン」とか「一山」という語感には、侮蔑が含まれている。少なくともアンドウたち二人にとっては、共通の認識だった。綿密な計算と堅実な生活とによってのみFIREは導出される。散財と賭けは、その対極だ。

文學界 二〇二二年三月号 P48)

 

俺もFIREに関してはなんか胡散臭い情報教材系のアレがアレするお題目程度にしか思っていなかった(実際、一般的にはそちらの方が主流になってあってしまったみたいな文もある)のですが、なんというかこれを読むと、いわゆる客を引き寄せるための華々しさとは程遠いというか……。少なくとも美女両腕抱き札束風呂のアレでは全然ねえな。ギャンブルに勝った感は皆無である。

 

そりゃギャンブルに勝ったわけじゃねえからな。投資をギャンブルと考えている時点で、多分色々とダメ。

 

 この女は狂ってた。

(文學界 二〇二二年三月号 P64)

 

アンドウ彼女、こ、こいつ「無敵」か……ッ!

 

多分色々あったんだろうな、描写されていないところで……。ひたすらタイミングを伺っていたか……最大の被害が出せるタイミングを……。

 

ただこのシンプルな「〜は狂っていた」という構造の文を見るとですね、俺の脳にはヤクザ天狗が出てきてしまうので、困る。ヤクザ天狗がこの部屋に乱入してきて、どうすれば良いか困っている。ニンジャがいないからな。俺も困る。……帰ってもらうしかないか。この人のドネート高いんだよな……でも払わないといつまでも脳内に居座り続けるからな……。

 

……払ったけどまだ居るな……どうしような……。……無視しよ。

 

さっきからいわゆる「純文学の感想を読みにきたお客さん」への配慮が0なんですが、大丈夫でしょうか。

 

まぁこういうのに汚染されきった人の純文学感想というのも珍しいだろうから、これはこれで需要があるだろう。

 

……畜生!淫獄団地をこの合間のタイミングで読んだらアンドウさんがアンドウ(被虐魔)に汚染されてしまった!

 

アンドウ(被虐魔)、調理開始時のエプロン姿は普通に可愛いんですけどね……テンションが上がってくるとああなってしまうのだ……世は無常なのだ……。

 

あと「煮えた油」はマジでヤバいからやめな。ガチで攻城戦とかで石垣登る兵士に使う奴だから。SMプレイとかそういうレベルではないから。そういうレベルではないものでそういうプレイをするから被虐魔なのだ、と言われれば黙るしかないが。

 

……この汚染は大丈夫な汚染ですかね?大丈夫な汚染なんてねぇよ。とりあえず今回の淫獄は久しぶりに推しのカンザキさんが出てきて嬉しかったです。予想されてはいたが、彼女もまた人妻だったのだ……。でもなんか普通に平和な家庭っぽいな。ベネ。

 

淫獄団地、人前では読みにくいけど真面目に面白いんですよ。カンザキとハイバラの殺伐具合がな……。

 

まぁアンドウ(さん/被虐魔)に関しては名前だけだし、俺に生じたこの汚染は一晩寝れば大丈夫な奴です。アンドウさんにM設定が生えるとかしたら不可逆の変質を果たしてしまうが、そうはならんやろ。名前がなぁ、同じだけなら良くある名前で通せたんだが、表記まで被るとなぁ……。

 

……いや漢字ならそれはそれで巨乳大好きとか全然普通な弟とかと被るか。被虐魔よりはマシだけど……。

 

この彼女のアレがオチかと思ったら、まだまだ続きます。あの後も表面上は友達付き合いができるあたり、大人ではある。それが良いか悪いかは知らん。

 

主催者は神山という男で、主戦場はSNSだった。いわゆるインフルエンサーと呼ばれる部類にカテゴライズして構わないような、典型的な成り上がり個人投資家だった。ジーンズにVネックの真っ白なTシャツ、ジャケットといういで立ちで、バチバチにキメたオールバック。

(文學界 二〇二二年三月号 P71)

 

「よくあるFIRE」の伝道師!インフルエンサー、神山さんだーッ!

 

あー、解像度が高い。FIREっつったらこうだよな。

 

ちなみにこういうセミナーには行った事ないです。なんか、丸め込まれそうな気がするので。眉に唾をつけるに躊躇はないが、まずは狐狸にそもそも出会わない努力をするべきだ。狸は、なんか、割と近所で目撃情報があるんですよね……アライグマかもしれんけど。

 

「記事についたコメント数」から経済を測ろうとするコメさん、イジられ倒される。……まぁ、イジリは明らかにやり過ぎなのですが、それはまぁ、無理だろ。

 

うわ変な位置に参考文献がある。なんだこの演出。……ああ、「億り人」パートはブログというか、「アンドウが書いた文章」というテイなので、その参考文献を作中に示す場合にはこういうことになるのか。なるほど。

 

読み終わりました。うーむ……なるほど。

 

とりあえず読み終えて一番初めに思ったのは、「俺に株(投資)は向かんな」ということでした。読み始めたころに「ちょっとヤバいな」だったあれやこれやの情勢が今なんか凄い事になっていますが、そんな情勢の変化を自分は必要以上に調べまくる傾向があって、ここに実際もしも「自分の金」なんてものがその情報によって増えたり減ったりするかもしれないという要素が増えるとまぁマジで大変なことになってしまうわけです。

 

調べるだけで(当事者の皆様とは比べるのも烏滸がましいというのは承知の上で)精神的に疲弊するような情報を、より積極的に手に入れる努力をしたうえで、そのうえで、「適切な行動」を取らないと、なんと資産に影響が出るのですねぇ……いやぁ……向かんな。

 

後は金持ちというか、守銭奴というか……どちらもあんまり適切な表現ではないけれど、「まずはお金が欲しい。それで何をするか、とかではなくて、とりあえずお金が欲しい」みたいな性質を持つ人物が、ローテンションで色々やる……という文章は、これは初めてよんだかもしれない。大抵金持ちのテンションは高いので。落ち着いているのは貴重。

 

お父さんとの口喧嘩は流石にちょっとヒートアップしていたが、それにしても直接手を挙げたりはしなかったわけで。……そういえばこのアンドウさんと対立するお父さんがいわゆる「議員とコネを繋いで地元で好き放題……」系の、いわゆる「古い金持ち」のやっている感じのことをやっている(そして彼に言わせればそれは『好き放題』ではなく、そんな言い分もまぁ一理はある)事を考えれば、なかなか……いわゆる「金持ちキャラの世代論」として見ることもできるだろうか。

 

初の文芸誌読書という事で、「100理解できたのか」と聞かれるとだいぶ怪しい……「億り人」パートはほぼほぼ理解できず、また「A・W・ジョーンズと一緒に内戦に巻き込まれる」パートは「……何が起きた?」と何回か数P前から読み直しついに何が起きたのかは解らなかった。

 

……夢オチ、ということでよろしいでしょうか?

 

そんな風にだいぶ翻弄されてしまいましたが、そんな風に翻弄されることも含めて面白かったです。慣れてきた頃に読み返せば、なんか変わるかもしれんので、まぁ、楽しみにしておきましょう。

 

ああ、それにしても金が欲しい。FIREするかは知らんけど、とりあえず金が欲しい。