節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

「ギフテッド」は落ち着くが、心休まるとは限らない。

先日チルアウトというエナジードリンクを飲む機会があったんですね。

 

エナジードリンク、あんまり飲まないんでこれはイメージの話になるんですが、エナドリはこう、「仕事をやってやるぜ!」みたいなテンションの際に使うものだと言う認識があったところで、チルアウトは「リラックスする時に!」みたいなテンションで使え、と広告されていたんで、それでちょっと興味を持ったんだな。

 

効果があったかどうかといえば、「一般的なエナドリくらいの効果はあったんじゃないかなぁ」という感じになりますが。リラックス……いつもより出来ていたような気もするが、偽薬効果だと言われれば、それもまぁそうかもなぁくらいで……。味も飲みやすい部類ではあったんだが、ジュースとしては割高だしねぇ。

 

今回ギフテッドを読み終えた、第一の印象が「落ち着くなぁ」だった。

 

なんだろう、死期の近いお母さんと、その娘さんの交流が、常にメメントにモリな感じで、それでいてこう、「死ぬから悲しい!泣け!」みたいなクドさが無く、淡々と物語が進んでいくんですね。読んでいて深く物語に集中し、入り込む事が出来た。

 

その結果リラックスというか、日常の喧騒から離れる……ような感覚になり、チルく落ち着く事になったのだろう、と、自己分析しております。

 

漫画やアニメにこじつける回路もねえ、どうやら「死」と結びつくと、働きが鈍くなるようだ。西村賢太さんの遺作や特集に触れなかったのも、今にして思えばおそらくコレが原因か。「人の葬式で漫画やアニメのネタではしゃぐのもな」と、それは流石に良心が痛むと言うかなんというか。

 

「平時から控えろ」と言われたら、そりゃあお前、うるせぇばーかとなりますが。

 

そんなわけで読書メモにおいて、あんまり漫画やアニメみたいな脱線話が出来なかったので、その分を発散するための前書きでしたとさ。さぁ読書メモ本文だ!

 

あ、落ち着くとは言ったけど、「居心地が良い」とかそういう落ち着くではないです。なんだろう……言葉の表現としては悪いが、テンションが下がる……ダウナー方向の落ち着くですね。つまらない訳ではないのだが。そういう訳ではないのだが。

 

じゃあ読書メモやっていきましょう。ネタバレ注意

 

 

【7/13 追記 単行本化おめでとうございます。読んだのは文學界掲載時なので、引用部のページはそちらに準拠します。】

 

 

【あらすじ】死期の近いお母さんと、その娘さんが交流する話。

 

語られているお母さんの情報は語り手である娘さん視点によるものなんで、どうしたって多少のバイアスがかかっている、というのを意識した上で「長くない」のはまぁ確実かな……。外見的な描写もそうだし、あとは行動の描写からも窺えるか。この辺りの筆致はさすがプロだ。

 

布団に座ったまま、量販店の安いテーブル越しに申し訳なさそうにする姿は、最期の日々、なんていう言葉からあまりにかけ離れている。

(文學界六月号 P12)

 

「かけ離れている」と言われ、一瞬「?」と思いましたが、続く文章からするに、おそらくもう少し華美なものをその言葉の印象として持っていた、という事か。こう、緑豊かな郊外のバルコニーでティータイムを取っていると眠るように的な。そういうアレのイメージか。

 

……まぁ、無理よなぁ。「歳とってから田舎に住むと体力の低下が命取りになるぞ」の、そのさらに上の状況ですものなぁ……。運動は日頃からしておいた方が良い。わかってはいるが。

 

「時間がなくなっちゃった。 もう本当に。 教えてあげなくちゃいけないことがたくさんある気がするのに」

(文學界六月号 P13-14)

 

こういう切実な描写をかさねられたその状況で、貴方は漫画やアニメがどうこうでふざける事が出来ますか?と、そういう話になってくるんだよな。俺には無理だよ。

 

いや、ネタは思いつくんですよ?最近(最近でもないけれど)読んだ「『久しぶりに再開した親子』の描写で良かったのはカイジの24億逃亡編におけるカイジとその母親」みたいな話から、「24億逃亡編色々と言われているようだけど俺は少なくとも和也と色々やってた時よりは好きだよ」みたいな話につなげようと思えばつなげられますよ?

 

ただ、やらない。描写が切実なので。

 

……こういう事を書くと「お前が今まで漫画やアニメのネタを放り込んでた描写は切実じゃなったのかよ」みたいな事を言われそうだな……ええと、少なくとも俺にとっては切実じゃなかった文章もあるし、あと場面としては切実だというのは理解した上で想起されたネタがあまりに強烈すぎて文脈として適切ではないと判断した上でそれでも、と書いた場合もあるし、あと言ってないだけで今までの文章でも我慢していた所はあります。ケースバイケースです。万事。

 

ことあるごとに死にたいと口にする女で、友人たちの間では単に機嫌が悪いとか、悲しいことがあったとか、会いたいとかと同義にその言葉を受け取る習慣ができていた。

(文學界六月号 P17)

 

娘さんサイドのご友人。

 

……居るなぁ。「あるあるネタ」であると判断し、そのように処理していたらそのうちにマジで、という顛末含めて……ある種の「あるあるネタ」ではあるのだろうが、これも流石に茶化す気にはならんよ。

 

お母さんはしばらく出てこないのかな。まぁ、うむ、病院で寝とるんだろう。無理はしない方が良かろ。

 

ーーこっちにいたとして、あの日みたいに今から死ぬって連絡きてたら、うちら止めに行ってたかな。
ーーだからさ、それはもうわかんないよ、でも今までもそんなメール来て、電話したことくらいはあったし、飲み行く?とか聞いたこともあったけど、本気にしたことなかったよ、私は。だってあの子も本気じゃなかったもん。死にたいなんて言ってくるヤツ、客でも女でも腐るほどいるしさ。その中のほんの数パーセントとか、もっと少ない、宝くじ当たるくらいの割合が本当に死んじゃうんだとしても見分けつくわけがない。

(文學界六月号 P20)

 

まぁ、そうなりますわよねぇ……。

 

実際どういう対応が正解なのかというと、これはまたケースバイケースだからなぁ。極論「こういう対応が正解だろ?」という態度での対応になってしまうと、それ自体が文字通りの致命傷になり得るというか……ちょっと「N/A」みたいな話にもなってきますが。

 

 

zattomushi.hatenablog.com

 

 

そういえば「2000連休」にも似たような話があったな……。ちょっと引用してみるか。

 

大学生の頃、 自殺未遂をした知人が電話をかけてきた。しばらく入院していたが退院したという。 なぜ私に電話したのかを本人が説明し、共通の知人としてAとBという二人の名前をあげた。
「わたしが自殺未遂をしたと聞けば、Aは激しく怒り、命を粗末にしてはいけないと厳しく叱りつけるだろう。一方、Bはひどく取り乱し、ほとんど自分のことのように悲しむだろう。しかしあなたは、わたしが手首を切ろうが、病院に運ばれようが、たいして興味を持たないだろう。だから、わたしはあなたに電話をかけたのだ」

(「人は2000連休を与えられるとどうなるのか?」P140-141)

 

 

zattomushi.hatenablog.com

 

 

この上田さんの対応は、少なくともある種の人間に対してはベストなんだろう、と思うのだが、狙ってできるもんでもないし、「反応が欲しい、どういうベクトルでも構わない(どういうベクトルでも構わないとは言っていない)のでとりあえず反応が欲しい」みたいな人にこれをやってしまうと悲劇が起きてしまうので、コレもまた難しいですね。

 

結局ケースバイケース、という話になってしまうのか。それ以外の結論は出せねえだろ。共通規格では無理だろ。

 

「じゃあ逆にどうあがいても間違っている最悪の対応は?」

 

……山岡(美味しんぼ)が岡星さんにやった奴じゃない?いや、あの後にいくら良い言葉が続くとしても、それは掴みとしてあまりにもキャッチー過ぎるというか……。

 

……次点で「空が灰色だから」の熱血教師が不登校の子にやった奴系の対応か。時としてそれが正解の場合も少数ながらに存在はするだろうから、まぁ……非常に分の悪い賭けにはなるけど、最悪では、ない……かな?そもそも賭けでそんな対応をするな、という話になるか。それはそう。間違いなく悪手寄りではある。

 

まぁなんにせよ原則「死ぬな」しか言えませんよね……。専門のカウンセラーさんでもなけりゃそれ以外の対応はなぁ……。

 

……!?(P22-23を読んで)

 

……「仕掛け」になり得る部分だから引用はやめておこう。見返したら14Pにもチラッとあったわ。多分ここが初出だ。

 

サラッとそういう情報を小出しにしてきますか……やりますね……。そういう人には見えなかった、と、これもまたテンプレ対応か。前半の母親に対する描写に感じた妙な感覚はこれだったか。読み返すのも面白いかもしれませんね。今はとりあえず本筋を進めるが。

 

……ブルーピリオドのヨタスケくんのお母さん、初見の際に見抜ける要素はあったんだよな……。……いや無理か……。居るもんよ、ああいう親……。黄金球(忍者と極道)の母親さえ、いるかいないかの話をするなら「いる」だろうからなぁ。恐ろしい話やでほんま。

 

「うん、今日やめてきた。よく覚えてるね」
「なんと。 店移るの? 引っ越すとか。あ、結婚とかおめでた。店と喧嘩した。転職。資格取得。 地元に引っ込む。 お金溜まって海外移住。歌手としてソニーレコードからデビュー」
「実はぁ、母が病気でぇ、そばにいてあげたいんですぅ」
「それ今まで何回使った? 俺、この店入って八年だけど、おばあちゃん五回死んでるけど」

(文學界六月号 P24)

 

使いやすいのはその辺ですよね。……言い訳で親族殺すの、話のネタとしてはよく聞くけど、実際には無理じゃないです?アレ。書類求められません?俺の職場ではなんか、出せって言われるぞ。言われないところもあるのかな。

 

「倒れたって聞いたんで駆けつけたんですけど、本人とお医者さんが頑張って、なんとか無事に済みました!結果すげぇ元気になったので元気すぎて診断書は出ません」

 

とかならまぁ、1回くらいはいけるかな。無理だろうな。なんでぶっ倒れたやつが診断書出ないレベルで元気になってるんだ。ザオリク唱えたんか。

 

……調べて知ったけど最近のザオリク、全回復しないんですね……最近って言うか、かなり前から……ドラクエあんまりやった事ねえから、完全に雰囲気でしゃべっている。ビアンカ・フローラ論争とか、知ってはいるけどね。話だけ聞く感じだとデボラもそこまで悪い感じはしないんですが、どうなんでしょう。

 

ちょっと明るい(当社比)あるあるネタがでるとすぐこれだぜ。ちょっと死の匂いが薄くなるとすぐこれだぜ。

 

お母さんのお見舞いに知らん人が来たよ。

 

そんなに経験はないけど、葬式、めちゃくちゃ知らん人が来るよね。びびるわ。

 

私の葬式あんなに人来ねえだろうな……。……あれ?マジで誰も来ねえんじゃねえか?アレとかアレは多分俺より先に死ぬし……。……孤独死、怖いですねえ。片付けの手間がアレなのが一番なので、まぁ、そこまで人様の心配する義理はねえといえばねえのですが……。

 

「昔お母さんの世話になった人」でした。そら知らんわな。

 

それに、このあとどれくらい長い話になるのか、どうもこの男の話のペースを掴めない。 ゆったりしていて、優雅と言えば優雅だが、焦ったいといえば焦ったいし、話がさっさと終わってしまっては困るような、時間を稼いでいると思わせるところもある。

文學界六月号 P31)

 

「初めて会った悪い人ではなさそうなんだけど話がひたすら長ぇ人」の描写として適切な文章である事だなぁ。オブラートを目いっぱいに使って、それでも「この人の話要領を得ないなぁ」という思いがめちゃくちゃ伝わってくる。

 

「あなたの言いたいことは要するにこういう事ですよね?」したら10分くらいでまとめられるんだよな。「そうなんだけど、細かいニュアンスがね……」これで40分くらい追加される場合もありますが。増えた情報はまぁ5分くらいで収まります。

 

まぁ私も話が長くなる傾向にあるからあんまり人の事は言えんけど。いや、あなたの要点整理で省かれた漫画・アニメのネタ、結構俺が語りたかった部分でね……?本筋と関係があるかないかでいえば、まぁ、ないんだけどね……?

 

【P32】はなんというか、先ほど隠した場面の真相開示パートというかなんというか。これを真相開示というかどうかは意見の分かれる部分ではありますでしょうがな。結局「なぜそんなことになったのか」を、解りやすく解説しているわけではないので。頭につい血が上って、本来意図していた以上の事をやらかしてしまった、とそういう感じですかね……。事後の対応はまぁ適切(最初のやらかしが不適切、というのは事後の対応へのコメントでは禁句だろうよ)ですし。許す許さないは当人の決めることでな。

 

この後娘さんが「こういう事かな」と考え、それがはっきりと母から答えとして示されないのも、「当人が決めること」ということなのか。「答えを出さない」という単なる文学の作法かもしれないけどな。

 

「疲れちゃったかな、なるべく、 あれやっておきたいなぁっていうことを数日のうちに思いついたらするようにしてください。そのために助けが必要なら、お嬢さんでも、わたしたちでも、言ってもらえればできる限りのことはします」
医師の勝手によって、私もできる限り助けるためのグループに編入させられた。私にできることの範囲で、母を救うような行為はおそらくない。

文學界六月号 P46)

 

切実なシーンなんですが、ちょっと笑ってしまった。いや当人からしてみればなんも面白い話ではないんですけれども。あまりにも冷静な口調で言われたので……。お医者さんとかこれを言っている側にも、「まぁそこまで大それたことを言うことはないだろう」という諦念にも似た覚悟があるからこの発言だ、というのを踏まえれば、やはり笑うような場面ではない。

 

そういう事を意識しておくのは大事なことです。素のリアクションを記憶しておくのと同程度にはな。

 

【P47-48】……というかまぁここからラストにかけては全体的に母親と娘の子の関係性の集大成、という具合ですので、まぁ引用とかはしない(するなら全部になる)のですが、敢えて言える範囲の事を言うのであれば、お母さんの言葉や詩には、あの哲学者の言葉を思い出しましたね。あの哲学者って言ったけど、まぁ調べなおさなきゃですが。

 

……ウィトゲンシュタインだ。論理哲学論考……「語り得ぬものについては沈黙せねばならない」……。真面目にどんな意味の言葉なのか、というのはそれは多分哲学に行った人の話を聞いてみないとわからないという意味ではこの言葉自体が俺にとっては「語り得ぬもの」ではあるんですが、まぁシンプルに「ようわからん事を迂闊に喋るな」くらいのニュアンスでいったん解釈するとして…………。

 

……何も言えないですね。詰んだわ。

 

……真面目に私が「ようわからん事」について全黙りした場合……何についてなら喋れるだろうか?まぁ純文学の感想は全アウトですねぇ、言うまでもなく。

 

 

 

そんなわけで読み終わりました。

 

「人の死」についての描写が前半と終盤にかなり濃く書かれていましたね。中盤ちょっとそっちとは別方向になりましたが……いやでも根本は同じか。「かつて(いうてそんなに昔ではない)あった身近(まぁ母親と比べてどちらがみたいな話になると意見はわかれるだろうけど)な人の死」、という意味では。そういう見方をすれば、終始「人の死」についてのお話だったのだなぁと思います。

 

俺が文學界読みだしてから一番「重い」話だったかなぁ……。個人の感覚の話になるだろうが。

 

この「重い」というのが重要で(なんかうまい事言ったみたいな漢字の並びになりましたね)、「暗い」ではないんだよな……なぜ暗くならないのか、それは解らない。深刻な話にしようと思えばいくらでもできるところで、ある程度セーブをかけているのか……。これももちろん個人の感覚の話になるだろうが。

 

……お金(治療費/葬式代)の心配とか無かったな。その点でいえばむしろ臨時収入があったか。あとお母さんの意識や思考は最後までしっかりハッキリしてたので、介護的な問題も無かった。まぁシンプルに弱ってはいたので、多少はあっただろうが、ボケとかは描写されている限りなかったかな。描写されてないところで多少老化ゆえのはあったんだろうけど。

 

そういう……言ってしまえば読者にとっても身近に想像出来る心配をいくらでも深刻に放り込もうと思えば放り込めるお話だったのにせずに、お母さんの過去であるとか、関係であるとかの、この物語独自の、オリジナルの方向に進んでいく。それが「暗さ」の低減として役立っていたのか、どうなのか。

 

そういう文学の技術的なことは、俺には語り得ぬことですね。沈黙!

 

あと単純に14Pの初出情報とか読み飛ばしてたから、俺の感性や集中力が鈍いだけかもしれないしね。読む人が読んだら超ド級のエンタテインメントになる可能性もまぁある……あるか……?

 

そういう人とあんまり友達にはなりたくありませんが、まぁ読み方は人それぞれだ。

 

俺の読み方も大概アレだしね。