遊園地に行ったことがあるかって?
あるにはあるけれど……もうずいぶん昔の話だなぁ。子供の頃……つっても中学生にもなったら、もう家族で遊園地にっていう雰囲気じゃなかったからさ。不景気もあったし。いや、そりゃ当時でも友達とか、恋人とかと行く奴はいたよ?いたけど、俺はつまり、そういう事だったんだよね。
1人でもまぁ、行けるか行けないか、っていう話をするなら行けるけどさ、楽しいか?っていう話になると、弱いんだよね。それなり以上に入場料とか、交通費とか取られるし、今だと情勢も色々とあるからさ。
よしんば楽しくても、それを共有できない、共有が難しいっていうのが難点で。男一人で遊園地に行って「楽しい!」とか言っちゃうと、「強がってる」なんて思われるのはまだいい方で……っていうのは、さすがに被害妄想が過ぎるかな。
……そんな事聞いてない?
……あ、「ゆうえんち」の話か。
行ったことあるわけないだろ。俺に何を聞いてるんだよ。
刃牙ワールド×獏ワールド!!
ゆうえんち、という伝説の場所をめぐり、強き男たちの生き様を描くーー!!誰よりも強くなりたいと願う少年、葛城無門。無門はなぜ“ゆうえんち”を探し出そうとしているのか?そのゆうえんちには一体何があるのか!?
格闘漫画の金字塔「刃牙」シリーズの板垣恵介
本格格闘小説の父・夢枕獏
新進気鋭の漫画家・藤田勇利亜
夢のチームが織りなす真格闘伝説!!
(1巻 表紙裏より引用)
寒村ね、寒村東吉の話か。
アイツは元々、刃牙のキャラクターじゃないんだよ。「謝男」っていう、板垣先生が書いた別の漫画のキャラクターだね。準レギュラーっていうか、まぁ、複数回出番があったよ。目立つ顔だから、印象に残っててね。
目立つ顔。ううん、なんていうかな。本人も言ってるから言っちゃうけど、まず目が散眼みたいになってて、焦点があってないの。あと歯茎が剥き出しなんだ。上も下もね。歯並びもそれなり以上に悪いから、印象としてはなんというか、お世辞にも格好いいとは言えないというか、「中の下」くらいの評価でお茶を濁してもまだお世辞になっちゃうかなぁというか、まぁ、そういう奴だったんだよ。
多感な高校生のソイツはさ、まぁ、そんな状況だったから、どうにかしようと思ったんだけど、どうすればいいのかわからなくて、結果、開運グッズというか、スピリチュアル方面のモノを買い漁っちゃったんだな。
ああ、効かなかったよ。
少なくとも本人は「効かない」と、そう判断せざるを得なかったようだな。買う前に気がつきゃ良かったんだけど、まぁ「効かない」と気付けただけで大したもんか。気付けない、気付こうとしない大人も多いからなぁ。
で、状況がますます悪化したソイツが、土下座を武器に立ち回る教師、拝一穴と出会いどうなるか、というのが「謝男」で寒村がメインを張る回(1巻 2話)のあらすじだね。うん、土下座は武器になるんだよ。板垣先生の編集もそう言っている。
ちなみに板垣先生は以前RIN先生と共同で「どげせん」という作品を書いていたんだけれども、「土下座性(土下座や作品に対する考え方)の違い」によって解散し、以降それぞれ別々の作品を書く事になったんだ。「謝男」はその板垣先生サイドの作品(RIN先生は「どげせんR」)。まぁ興味があればいずれか読んでみるといいよ。
両先生の「土下座性」について、どこがどう違ってしまったのか、考察してみるのも面白いんじゃないかな。俺はやらない(やろうとしたけど記事になるレベルで纏まらなかった。まだ『別作品を同一のテーマで比較する』には実力が至らないと実感した……実際には「土下座性」というよりは「仕事感」の問題が強いみたいだし)けれども。
……作品のノリとしては「謝男」の方が好きではあるんだが、単話として1番好きなのは「どげせん」の「大木に土下座する」話なんだよなぁ……いやあの話はあの話で板垣成分がかなり濃い部類だろうが。そもそもその言葉の出典が。あの言葉自体は謝男にも出てたかな。あと最終話は「どげせん」のスケール感が好きです。やはりどうせ土下座をテーマにするのであればあのくらいはでっち上げてもらわなくては。
閑話休題。
そんな「別の漫画の印象に残る脇役」が、寒村東吉が、バキの外伝に出てきたんだよ。しかもだ、ただのファンサービスってわけじゃなくて、ちゃんと「寒村東吉でなければ駄目な役回り」として登場してくれたんだ。
マスター国松の門下だったんだよ、寒村東吉。
あの学校の校長、国松拳っていうんで、まぁ、マスター国松のお兄ちゃんだったみたいでね、その縁でマスター国松の道場、いや彼にしてみりゃかなり健全な部類(少なくとも暗殺技術は教えない)の道場だとは思うけど、そこに入って、フロントチョークを習得し、その技術で拝先生をオトしたんだなぁ。
……あ、言っちゃった。まぁいいや。拝先生は色々あって寒村にフロントチョークでオトされるんだよ。いやまぁ、その前に色々やりとりがあって、そのやりとりが本題だからさ、読むがいいさ。
そう言われてみりゃ確かに国松校長先生、顔の雰囲気とかは似てるように見えてくるから不思議だよねぇ。案外、裏設定として板垣先生の脳内には前々からあったのかもね。
それに拝先生の土下座を無理矢理にでも止めるっていうのは、これはすごい事なんだよね。あの人が「土下座をする」と決めたなら、なかなか土下座されずにはいられないんだよ。めちゃくちゃ強い口調で止めた人とかも居るんだけど、それでも下げる頭自体は止められなかったからねぇ。
そういう奴の土下座を止めた技が、マスター国松の直伝だとしたら、これは確かに納得できるんだよ。不意をつく、というか、呼吸の間を縫う、というか、そういう技術の話になってくるのかもしれないな。
で、そんな寒村が登場して何を話すのか、というと、これは「あるキャラ」の目撃証言なんだ。ううん、バキの読者なら知っている奴だとは思うけど、一応隠しとくよ。まぁアレだよ、マスター国松が話題に出たじゃん。その流れ。うん、アイツ。本編の方ね。
ここで「アイツが出るような場所になぜ寒村が居たのか」というところに、また「解釈」が光ってくるんだな。あの後寒村がどういう道を辿ったのか、それをある程度読者に委ねた上で、最終的にはこうなりました、という着地点として、俺は実にすんなりと「寒村の現在」を受け入れることができた。まぁ、人による部分は大きいと思うけどさ。
要するに、だよ。寒村東吉の登場って言うのは、単なる「分かる人には分かるファンサービス」じゃ、ないんだよな。
そのキャラクターが原作で何を為したのか。それを、その行動を「事実」としてまずとらえるだろ。次に、どうしてそういう行動をしたのか、その行動の後に何が起こったのか、これを「解釈」するだろう。そうしたら、その「解釈」を、物語の本筋に、無理が出ない程度に丁寧にからめていく。
俺は別に小説とか書いたことは、そんなにないけどさ、いや、出来ないよ。並みの難易度じゃないだろ、これ。そのくらいはわかるよ。素人だけどさ。
そんな「分かる人には分かるファンサービス(Lv100)」だらけだからさ、とにかくバキの読者なら、読んでほしいんだよね。いや、「分からない人」にも楽しめると思う。俺は獏先生の出典の方のネタは、漫画版餓狼伝くらいしか拾えなかったけれども、それでも全然楽しめたからさ。ただ、「バキ」は読んでないと、話の流れがわかりにくいかもしれない。わかんない。読んでない読者のことを、あんまり正確に考えられないんだよね。俺は読んじゃってるからさ。
でも、それはそれで貴重な体験になるかもしれないからさ、挑戦してみてもいいんじゃないかな。
あともう言っちゃうけれども。あんまり行儀の良い作品の勧め方じゃないんだけどさ。成田良悟先生の二次創作……BLEACHのノベライズとか、Fate/strange fakeとか、あの感じが好きな人も、バキ解るなら、解らなくとも、読んでみればいいと思うよ。まぁ、この人たちはひょっとしたら、寒村の下り読んだ時点でもう買いに動いてるかもしれないけどね。
ああ、本筋の話だろう。わかってるわかってる。
もちろん、面白いよ。決まってるじゃないの。
これで「寒村が出てくるのは良かったけど本筋はそんなに……」とか言い出したら、俺ひどい奴じゃないの。
謎の美青年、葛城無門。その師の名は松本太山。だがその師弟関係は、ある時突然終わりを告げる。師匠を「壊した」その技は。その使い手とは。すべての謎は「ゆうえんち」に。
……というのを軸にして、「葛城無門とは何者なのか」とか、「『ゆうえんち』に集う変態強者たち」とかを絡めていく。となれば文句なしに面白い。戦闘描写に関しては、今更俺がどうこういう方が野暮ってモノだろう。
序盤で気に入ったポイントとすれば、マスター国松の「強さ」の描かれ方かな。マスター国松が「強い」っていうのは、まぁ、分かっていたことではあるじゃない。ただ、あの人が直接戦うところっていうのは、本編では結局ないんだよね。
で、今回戦うわけだけど、ううむ、マスター国松という「個性」……「隻腕」という「個性」だよね。無くした左腕から繰り出されるは袖による完全な鞭打。もちろんそんな一発ネタじゃ終わらないよ。空足、そして。……ただの「強い」じゃない、「『妖怪じみて』強い」という、その言葉の意味を感じさせてくれたよ。
個人的に気に入ったポイントはさ、「相手が怖がれば怖がるほど妖怪は嬉しい」という文章がそのままマスター国松の「本質」だとすればさ、それはそのまま「疵面」のマスター国松だとしても「読める」ところかな。
疵面のマスター国松は、そりゃあそんなに飛び抜けて「強い」とは描かれていなかったというか、露悪的な言い方をすりゃあ、ちょっとした中間管理職の苦労人だったけれどもさ、あの時マスター国松が戦っていたのって、主に花山だろ、レックスだろ、戦っていたというかは微妙だけど、上司としてG.Mだろう?
怖がらねえもんアイツら。そりゃあ妖怪は本領を発揮できないよ。なんだったら、むしろ本人が怖がってたからね。そりゃあダメダメですよ。
「殺す技を受けると怖がらずに嬉しくなる」……そんな変態、種族名「強いんだ星人」全般と相性が悪いんだろうね、マスター国松さん。本編での活動も、その辺りで難しいのかもしれない。主要登場人物がほぼ全員強いんだ星人だからね、本編。
とにかく、読んでいて面白いにとどまらず、ただひたすらに読んでいて楽しい、良い小説でした。
実はまだ全部読んだわけじゃないんだけどね。3巻までしか読んでないけどね。
我慢できずに書いちゃった。ま、後悔はしないだろう。
渋川の爺ちゃんがインタビュー中にちょくちょく「お?やんのか?」してきて怖かったとさ。あの爺さん、マジで堅気に手を出した実績があるから。