節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

#成田作品ワンドロ 「Fate/strange fake」偽キャスターという男

 

「次の成田作品ワンドロどうしようね」

 

「好きなキャラ3選……いや、ベストバウト3選……?」

 

偽キャスター。

 

「え?」

 

偽キャスターだけで1時間もたせる。

 

「……マジ?」

 

好み過ぎるから全然いける。

 

「……いくか!」

 

いこう。そういう事になった。

 

 

Fate/strange fakeのネタバレを含みます!ネタバレ注意!

 

 

序文

 

偽キャスターについて語るという事は、「Fate/strange fake」について語るのと同義である……そういっても過言。……いや、まぁ確かに過言ではあるのですが、しかしそれでも、こじつけられないこともない。

 

偽キャスター。真名や宝具、スキルの詳細については今しばらく置いておくとして……その最たる特徴は、「時として原典を凌駕する『贋作宝具』の作成」である。

 

条件はある。弱点もある。無尽蔵にできる芸当ではなく、それなりの「材料」も必要なそれは、効果を字面だけで見るよりもかなり縛りが多く、弱いとは言わないまでもピーキーな……敢えて露悪的な表現をすれば使いにくい印象を与えるのはたしかだろう。

 

それでも、マスター……警察署長、オーランド・リーブは彼を選んだ。

 

人が人のまま英霊を超えるために。かの英雄王の数え切れぬほどの『宝物庫』に対抗するために……!偽キャスターが強化するのは、警察組織「二十八人の怪物(クラン・カラティン)」。

 

人の世の安寧を守る「警官」諸君は、規格外ともいえる偽りだらけの聖杯戦争で、果たしてどのような役割を為すのか……!

 

……というのを、まずは1巻プロローグ時点での彼の「カッコいい」語りとしておこう。この裏でマスターに最高級の娼婦をねだったりしてるんですが、それはまぁ、それはまぁ。……そもそも偽キャスターがなぜ聖杯戦争にやってきたのかといえば、それは『聖杯戦争というドラマを楽しみたい』からであって、別にこの人聖杯とかそんなに要らんエンジョイ勢なのですよ。もらったら良い飯と女くらいは願うらしいが。

 

さて、そんな彼が登場する、「Fate/strange fake」のテーマとは何か。数多く展開されるFateシリーズにおいて、敢えてここで成田良悟が、新しく物語を作るその意義とは何か。

 

1巻巻末、奈須きのこの解説、その冒頭を引用しよう。

 

贋作が本物と戦う話をしよう。
デッドコピーであろうとエピゴーネンであろうと、それ自体の価値が原典のそれとは別のものになった時、真偽の計りは消失する。
たとえそれが偽典であろうと。語られる内容に創作者の信念が込められているのなら、それは間違いなどではなく、ある人間の真実になるのだから。

(Fate/strange fake P298)

 

……「偽物」と「本物」。考えてみればそれは、Fateシリーズのその初代から、長く語られ続けてきたテーマである。

 

「偽物が本物に劣るとは限らない」……というのは、各作品において様々な手段を用いて語られてきた事であり……それらについては多分原作のゲームをちゃんとやった人たちの方が詳しいので、そちらに譲る。わしゃあSNはアニメと映画と漫画*1だけのにわかなんじゃ……。

 

Fateシリーズ全体を通して、そういう「流れ」がある中で。作品を通して語られてきた「本物を凌駕する偽物」というテーマとしてのその文を……あろう事か、「1キャラクターの設定文」に持ってきてしまったのが偽キャスターなのである!今まで最後の最後、クライマックスでこそ活きるその一文が……偽キャスターの場合、登場したその段階で出てきている!

 

なんなら、1巻の表紙ぺらっと捲った見開きキャラ紹介で既に書かれている!

 

これはつまりどういう事か?……スタート時点で既に「これ」が出来るという事は、偽キャスターはこの長年のテーマに大きな一区切りを付けるなり……あるいは、このテーマを「次」の段階に進めかねない、という事だ!

 

そう勝手に期待しているアカウントがこちらです。

まぁそうならんかったら「ま、せやろな!」つって寝るわ。

そうならんくても既に十分楽しめてはいるしな。

 

偽キャスターはFate/strange fake……という作品、ないしはFateシリーズの1つの大きなテーマに多大な影響を与えかねないキャラクターではありますが……彼だけで作品やシリーズ全体を語るのはやはり過言というか無理なので、大人しく作品を読みましょう。

 

それはそれとして偽キャスターは大変に魅力的なキャラクターなので、これから語りたいと思います。まだ序文だぜ。

 

 

偽キャスターという男

 

はい、というわけで真名や宝具、スキルを隠さずに偽キャスターについて語っていきます。一応もう一度だけ書いておこうかな。ネタバレ注意です。間隔も開けよう。

 

 

 

 

 

偽キャスター。真名、アレクサンドル・デュマ・ペール(大デュマ)。巌窟王や三銃士で知られる、言わずと知れた大作家。FGOプレイヤーに置かれましては、あのSECOM系復讐鬼、エドモン・ダンテスの生みの親……という表現が最もわかりやすいかと思われる。……わかりやすいだけで、間違った説明になってしまうのですが。そもそもエドモン・ダンテスの行った復讐劇と物語としての「巌窟王」はダンテス本人も言及している通り完全にイコールというわけではなくゴニョゴニョ……ま、関係者であることは間違いないがね。ちなみにエドモン・ダンテス(生前)ご本人、Fakeにちょびっと出るよ。そちらのファンも必見だ。

 

聖杯にかける願いは前述のとおり、敢えて言うなら「美味い飯と良い女」。どちらかといえば聖杯戦争それ自体を見物にやってきた、という形での召喚。既存のキャラクターで言うならApoの赤キャスター……シェイクスピアが近いだろう。

 

保有スキルは「時代観察」「美食家」「無辜の怪物」。「無辜の怪物」は近年の研究が進んでいるため低ランクだ。「時代観察」が主に作品執筆に対して使われることを考えれば、戦闘に関して使えるものはほぼほぼ無い。しいて言えば「美食家」により狩猟に+補正がかかるため、【獣】属性相手の雑魚エネミー(FGOで話の途中で唐突に出てくる感じのウェアウルフとか猪とか)なら、まぁ、まぁ……普通の魔術師と同じくらいは戦えるかもしれない。筋力もCランクと、文筆系サーヴァントにしてはやや高めだし。

 

「美食家」はなんでしょうね……味覚の鋭敏さを示すとか言われてもな。毒が盛られてたら気づけるとかだろうか。あとはZeroキャスターの「芸術審美」みたいに、一部サーヴァントの真名にいち早く気づける、とかはありそうではある。料理関係者……俵さんとか?「コメが無限に出てくる俵」なんて持ってたら、そら気づくやろ、という話でもあるが。PL知識とPCスキルの乖離の話になってくるのかもしれない。TRPGの人が話しているのを見たことがあります。

 

宝具は2種類。規定回数任意の対象を強化する「銃士たちよ、風車に挑め(マスケティアーズ・マスカレイド)」と、クラススキル「道具作成」を「道具作成(改)」へと強化し、既存の物品を「宝具」に昇華する「遥か終わらじの食遊奇譚(グラン・ディクショネール・ド・キュイジーヌ)」。どちらもサポート向けの宝具である。

 

「銃士たちよ、風車に挑め(マスケティアーズ・マスカレイド)」をFGOに実装した際に、「単なる味方全体バフ」以上のエモい効果にできないかなと俺はずっと考えていたんですが、テスカトリポカがパッシブで「戦士の司」っていう「マスタースキル強化」の効果を持ってるんで……「これだ!」と思いました。これだけだとちょっと弱いかもなんで、そうだな、「マスタースキルのCT短縮」とか、そんな感じでお願いできれば。その際はマスタースキルのCTの短縮しにくさを加味していただいて、3-5くらいにしていただいてもバチは当たらんと思う。「(生きてさえいれば)毎ターンマスタースキルのCTを1短縮」とかも面白いか。

 

まーけど、映えるのは「遥か終わらじの食遊奇譚(グラン・ディクショネール・ド・キュイジーヌ)」の方だよな……ただこれも制限が多くて……「既に現物としてある宝具」に手を加えるのもできるっちゃできるんだけれども、Aランク以上のには完成してるんで手を加えられないです。……これもどうしようねぇ。宝具バフしか思いつかんが……。

 

そこそこの倍率の宝具バフと、OC上昇(1回、1段階)と、「宝具使用時にスター獲得」or「宝具使用時に全体にNP獲得(小)」or「宝具使用時に味方全体の攻防バフ」の選択肢の内からなんか、プレイヤーが選べる感じにして、「改造」感を出すか。あるいは10種くらいの効果のなかからランダムで3つくらいつけてみるか。「宝具使用時に○○特攻付与」が適切なタイミングで3つ重なったりしたら熱いじゃないですか!8割がたの局面でハズレ扱いされてしまうのが難点だろうが。

 

……絶対どこかでバグが起こる。あとこれはTCGで時として見られる、「以降新しいカードを刷る度に『組み合わせても事故らないか』チェックする必要が生じる」カードに為りえる。FGOは禁止とかできねえし、バランス調整が大変なことになるので、こういう効果だと嬉しいが、それはそれとして俺はやめておいた方が良いと思う。

 

まぁ、キルケーの「豚化」で一度通った道ではあろうが。バランス調整……考えてはいると、思いますよ……一応な。いやでもククルカンはアレ、大丈夫なのか?(引けなかったけどフレンドさんに使わせてもらった)(ヤバかった)。

 

サーヴァント性能の話はこれくらいにして、次に人格的な話をしよう。

 

一見すると「ノリの軽い兄ちゃん」的な性質であり、警察署にこもりながら署長に飯だの女だのを頼む姿からも察せられる通り、非常に世俗的な人物だ。聖杯戦争に関しての様々な情報をこっそり宝具化した情報機器で収集し、また警察陣営強化のために原稿を書き続ける……一方で、「お前それ聖杯戦争に全然関係ないよね」「それは関係はあるんだけど本来お前が知ってたら不味いヤツだよね」という事についても興味津々で調べていたりするので、マスターのオーランド・リーブさんの眉間から皺が消える事はない。

 

しかしあくまでも彼は人類史に刻まれた英霊だ。なにも物見遊山や観光目的に召喚されたわけではない*2。やるべき仕事はしっかりこなすし……観戦もポップコーンを片手にお気楽映画鑑賞感覚でしているわけではない。「画面の向こう」の存在ではない。彼もまたしっかりと、この聖杯戦争の当事者なのだ。

 

……さぁ、そんな彼の活躍を見ていこう。

 

1巻

 

登場して早々にマスターに「兄弟!」と呼びかけ、軽いノリで愚痴り続けるシーンは、なんというか「これぞ成田良悟!」という感じで愉快だったが、しかし軽いノリばかりというわけでもない。署長さんも途中までは勘違いしていたようなので、まぁ無理もないけれども。

 

……そう、署長さんも途中までは勘違いしていたんだ。

 

フランチェスカって嬢ちゃんにも、そんなにつれないのか? 兄弟』

Fate/strange fake P277)

 

執筆にこもりっきりなはずのデュマの口から、「黒幕」の名前がでるまでは……!

 

『ああ、そうそう。日本で思い出したが、冬木ってのぁいい所らしいな。 龍脈の流れもこの土地と同じぐらい質がいいってよ。 まあ、俺は龍脈とか感じ取れないからどうでもいいんだが。土地って言えば、ここの土地守のティーネ・チェルクって嬢ちゃんに、今度電話でも入れてみるか?警察署長はこの祭を仕組んだ魔術師の一人で、スパイがあんたの組織に何人も居ます……ってな。おっと、長々と一方的に喋って悪いな。自分の本だともっと長い台詞もポンポン書くんだけどよ。 やっぱ言葉のキャッチボールってのは大事だよな、兄弟』

Fate/strange fake P279)

 

出るわ出るわ機密情報。そういえばティーネの組織にいる警察のスパイとかまだ回収されてないな……署長にブラフ張る意味もないから、まぁいるにはいるんだろうな。ちなみにこの情報収集は、たぶん「食遊奇譚」でPCとかを宝具化したやつです。当時の俺は「デュマの代表作「巌窟王」は元をたどれば新聞連載……つまり宝具、あるいはスキルにあるのは毎日発行され、聖杯戦争に関する情報を集めてくる『新聞』……!」とか予想していました。俺の予想などこの程度よ。

 

新聞どころかリアルタイム更新で全体から情報掻き集めてくる奴が出てくるとはまさかおもわねえやな。

 

そんなわけで最初にデュマの事を「脅威」とみなしたのは、実のマスターその人なのでした。大丈夫なのかお前ら。

 

それをこれから見ていこう、というわけだ。

 

ちなみに大丈夫なのかと問われれば、8巻時点で答えるならば、あの、この聖杯戦争自体がそもそも全然大丈夫ではないので、それを基準に考えるのであれば、相対的に全然大丈夫なほうです。うん……いや、なんなら一番安定して仕事をしている陣営では?割とマジで。不安要素も……しいて言えばジョン君くらいか。

 

2巻

 

2巻。Fate/strange fakeという物語を語るのであれば、欠かす事の出来ない「あのシーン」が登場する巻である。画的に映える名シーンだ。どのくらい名シーンかと言われれば、アニメ特番のお知らせで真っ先にビジュアル化された程度には。

 

【悲報】セイバー、逮捕。

 

しっかり市民にオペラハウスの弁償を約束する演説を執り行うセイバーの姿は面白かった……当然すぐに手錠を掛けられパトカーに乗せられていったのだが……わしは心底しびれたよ。

 

……さて。逮捕、というのは当然警察の仕事である。警察の仕事である、という事は、署長さんが大変だ。神秘の隠匿とかあのセイバーが全然考えないで演説しちゃったんで、黒幕陣営のファルデウス君とかも大慌てである。フランチェスカはウケてた。みんながみんな大変なタイミングで、さてキャスターは何をしていたか。

 

カジノ行きてぇって署長に言いながら(断られた。飯の要求は通った)、音楽ソフトでオリ曲を作成していました。タイミングとしてはやや前後するが、まぁ同時期である。

 

「ほー、パソコンで音符と歌詞を入力すりゃ、この絵の嬢ちゃんが歌うってのか! すげえ時代だなおい! こりゃ聖杯戦争どころじゃねえぞ!」

Fate/strange fake 2 P80)

 

ミクさんかねぇ。彼女もだいぶ息が長い。AIコンテンツとの関連付けもまぁ起こるであろうから、近いうちに大進化がきそうではある。デュマさんのオリ曲についてはまぁ、読んでください。

 

さて、ふざけてばかりもいられない。この2巻で警察陣営は、ある意味で最悪の相性の相手と戦うことになる。

 

死徒ジェスター・カルトゥーレ……「六連男装」の異名を持つ、強力な吸血鬼。人類史を否定するその死徒としての「種族特性」は、人が作りし宝具、人が使いし宝具を無効化してしまう、恐るべきものだったのだ。まぁFateは割と相性ゲーな部分はある*3ので、あまり気にしない方が良いっスよ。このシーンでハンザさんも言ってたけれど。

 

死徒はまた別の相性ゲーの前に退散したのですが、「人間である限り決して勝てない」存在は、警察陣営に暗い影を落とす事となり……そして実際、片手を奪われた負傷者まで出てしまう。

 

彼の名はジョン。だが彼の雄姿はデュマや署長を改めて奮起させ……そして極上の「材料」が、獅子劫さんから届けられるのでした。

 

3巻

 

セイバーの残していった剣を「ただの装飾剣」と看破しながら、与えられた情報から、その真名に辿り着く。このころにはもう署長とはなんだかんだ結構仲良し、という感じ。言い争っている場合ではなくなってきた、とも言いますが。

 

「神話と歴史の境目を生きた最後の王」……であるという、その立場に軽く触れながら、能力としては「なんでもカリバー」を看破する辺り、観察力に関しては流石、というところか。

 

他にも「アヴェンジャー」というクラスについて語ると同時に「復讐」についての持論を展開したり、いろいろと面白く興味深いやり取りはあるものの、今巻ではあくまで解説役、といったところでしょうか。

 

4巻

 

直接の行動は控えめだった前巻とは打って変って、今回の先生は活動的だ。

 

クラン・カラティンメンバーへの直接のインタビュー……。ジョンさんには新たな武器が手渡され、そしてこのインタビューにおいては、デュマ……偽のキャスターの脳内や手の内も徐々に見え始める。

 

宝具改造の宝具の由来に始まる、自らの過去……。

……そして、警官たちに「自分たちは勝てるか」と問われたデュマは語る。

 

「・・・・・・また、俺の昔話になっちまうが」
(中略)
「俺は最初、演劇にも小説にも興味なんざ無かったんだ。お袋に古典の退屈な悲劇ばっかり読まされて、辟易しててな。 ……だけどよ、ある日見た『ハムレット』って悲劇だけは別もんだった。圧倒されてな。 思わず無理言って脚本を譲って貰って、全部覚えちまうぐらい何度も何度も読み返した。俺はそれで、演劇って奴に興味が出てな。あれが、俺の始まりの一つだ」
(中略)
「ところが、だ。その『ハムレット』は、デュシスって旦那が翻訳……いや、ありゃ翻案だな。とにかく原作を壊しに壊してから自分なりの解釈で書き直したブツでな。俺も後で本物のシェイクスピアの書いた脚本を読んで腰が抜けたもんだ。あの本物に比べりゃ、俺が見たもんは原作ファンもシェイクスピアも大激怒しそうな酷ぇ本、まさに『ハムレットもどき』だったのさ」
(中略)
「だがな、俺の人生を変えたのは、その「もどき』の方だ。これだけは誰にも否定させねえ。まあ、大本が良すぎたからってのはあるかもしれねえが、偽物だろうとなんだろうと、そこにはデュシスの旦那なりの本物の熱意が詰まってたって事さ」
(中略)
「安心しろよ。お前らはまだ知らねえが、兄弟……お前らのボスの熱意は本物だ。お前らが最後まであいつを信じ抜きゃ、たかだか本物にすぎねぇ伝説の一つや二つ、いくらでも覆してやれるだろうよ」

Fate/strange fake 4 P218‐219)

 

デュマの「人間観」だったり、マスターへの信頼関係を思わせる、名セリフというべきであろう。……4巻初版発行は2017年4月。ぐだぐだ明治維新だったり1.5部だったりCCCコラボだったりの時期だが……さて、どこか最初の異文帯の、「強いだけの世界」を思わせるのは果たして偶然なのだろうか?

 

あとどうでもいいんですが(どうでもいいってことはねえんですが)、この時点で「警察内部にスクラディオファミリーの内通者がいる」ってわかってたんですね。じゃあ、あの、ジョン君アトラス説、なかったことにしてください。

 

そして、デュマの仕事はいよいよ部屋を飛び出して行われることになる。

 

偽ライダーのマスターを狙うアルケイデス。「神獣」であるケルベロスには、またもや人間の力では太刀打ちできず、警官隊はなすすべもなく、偽バーサーカーの2つの宝具の組み合わせは……これは若干ならずとも効果があったのだが、アルケイデスの「奥の手」の前に、むしろアルケイデスを強化してしまう結果に終わる。

 

そんな中、戦う力を持たない作家先生が、一人登場するわけだ。

 

「役者が勇気を見せるってんなら、俺も少しは筋道を直してやるとするか」
そして、遠目に義手の警官――ジョンを見つけてニヤリと笑う。
「驚き役で終わらせやしねえよ。 ……お前らみてえな奴こそ、英雄であるべきだ」
独り言を呟きながら、彼は静かにスクロールに『物語』を記し始める。
彼が気に入った役者達に贈る、ささやかな花束の代わりとして。


「…………銃士達よ、風車に挑め(マスケティアーズ・マスカレイド)」

 

Fate/strange fake 4 P290)

 

……しびれますわねぇ。

 

他にも色々見るべき部分はある。71Pの胃薬発言なんかは、今見ると「うわーっ!」となりますね。胃薬にはいろんな種類があるんだなぁ!何にも面白くないわ。


5巻

 

 

 

5巻の表紙はデュマ先生で、何なら冒頭からデュマ先生だ。生前のデュマ先生は口調もラフな感じではなくて新鮮だ……普通に敬語使える人ですからね。ノディエ先生との会話もそうだったけれども。今回のお話のお相手はナポレオン・ボナパルトの甥……そして彼らが語るその目線の先にあるものは、というのはぜひ読んでいただきたい。

 

人間であるジョンさんがアルケイデスの前に対峙するくだりや、その前の語りなんかも良いのですが……この記事はあくまでもデュマの話にとどまるべきか。なにせこのすぐ後に、「銃士たちよ、風車に挑め」の効果を受けて、デュマの人生を彼は追体験することになるわけだから……語るとすればそちらの方を。

 

かの復讐鬼……巌窟王エドモン・ダンテスとの交渉を。

 

「ああ、そうだ。こいつは取引だ。俺があんたの復讐をアレンジして本にする。パリ中の人間に、世界中に、あんたという人間を語ってやる」
(中略)
「多かれ少なかれ恩讐なんざ誰でも抱く。ガキでも語れるもんだ。だが、お前さんの、エドモン・ダンテスの、巌窟王の恩讐を語れるのは誰だ? ······俺だ、俺だけだよ復讐者。弟に菓子を取られたガキの恨みと、人生を丸ごと全部奪われた手前の恨み、どこが違う? もちろん違う! だが、それを誰よりも劇的に語れるのはお前さんじゃあない。あんたは何万、何十万もの民衆の心に語りかける事ができるか? 俺は語れる!その為にペンがある! ......いや、逆に言うとな、あんたはもう、何百万、何千万の人間に語り終えたも同然だぜ 書き記すのは確かに俺の筆だが、その俺にその生き様を見せつけたのは、他でもないお前さん自身なんだからよ!」

Fate/strange fake 5 P211‐212)

 

さて、時を同じくしてデュマは偽バーサーカー、そしてそのマスターのフラットとも会話している。フラットとの会話はノリこそ軽いが、やっている事は「霊基の改造」というかなりえぐいものである。まっとうな魔術師、英霊であるならば、拒否して然るべきものだった。

 

まぁあの二人はまっとうではないので即断で了承したのだが……ワシは心底しびれたよ。実際アルケイデスに致命傷を与えることが出来た策だったり、凶器だったりはデュマの手によるものだったので、実質アルケイデスを倒したのはデュマといえない事もない事は無い。

 

結局倒せてはいない?

むしろ本気にさせてしまった?

 

知らん。そんなことは俺の管轄外だ。……歪んでなかったら倒されるのもやぶさかではなかったらしいから……。

 

6巻

 

行方不明になった警官隊の皆さんを心配する署長のもとに現れるデュマさんは、もはや間違いなく署長の信頼すべきサーヴァントであった。

 

「兄弟、あんたが俺に依頼したのは、警官隊の武器を作る事だ。魔術師としては駆け出し、 英霊なんてもんと比べた日にゃ、そこらの公園でベビーカーに揺られてるガキと大して変わらねえって奴らに、「戦う為の力』を与えるって事だ」
(中略)
「俺は作家だぜ、兄弟。 その俺が、お前らに与えられる『力』は何だ? 『武器』は何だ?英霊とやらになる時に、どっかからくっついてきた『宝具』の力って奴か? 付け合わせに出された道具作成のスキルって奴か? まあ、それも答えの一つだが、根本じゃあねぇ」
(中略)
「俺が他人にくれてやれるものはただ一つ!そう!『物語』だ!」
(中略)
「虚構(フィクション)だろうが現実(ノンフィクション)だろうが! 改稿した戯曲だろうが俺の自伝だろうが! 一から十まで俺の頭の中で生み出した妄想の類だろうが! 崇高な人間と歴史の生き様を小説に打ち直したもんだろうが! 世界が紡いできた料理の歴史を纏め上げたもんだろうが! それもこれも全部ひっくるめて『物語』 って奴だ」
(中略)
ガリバルディの旦那が革命を起こすって言った時に、俺は確かに船だの金だの武器だのを支援したさ。だが、そいつも一つの「物語」だ。金も銃も名声も、人の手に渡ったって話が他人に知られた時点でいくつもの意味合いを持つ。世を騒がせる英雄に、 三銃士の作者、アレクサンドル・デュマが支援した! あの時期の俺じゃ大した効果は無かったかもしれねぇが、一人の人生に影響を与えるにゃ充分な断片だ。ちょいとネットで俺の情報を調べてみたが、ちゃあんとその話が残ってやがった。 少なくとも、100年ちょいは忘れられなかったってわけだ」
(中略)
「ジョン・ウィンガード」
(中略)
「ヴェラ・レヴィット、アニー・キュアロン、ドン・ホーキンズ、チャドウィック・李、ユキ・カポーティ、 アデリナ・エイゼンシュテイン……」
(中略)
「ーー、ーー、……ソフィア・ヴァレンタイン、エディ・ブランド......。 で、締めはあんただ兄弟。 オーランド・リーヴ警察署長殿?」
(中略)
「名前だけじゃねえぜ? 面も、声も、生い立ちも、好きな香草の種類に到るまで知った範囲は丸ごとな。っていうか、あんただって部下の名前は全員覚える性質だろうがよ、兄弟」
(中略)
「今名前を挙げたのは、『主要人物の一覧」って奴だ。連中はもう俺の作品の主要人物なんだよ」
(中略)
「神を気取るわけじゃあねえし、コントロールしようなんて気もねえ。だが、兄弟達にとっちゃ恐らく最初で最後、一世一代の「聖杯戦争』って演目だ。俺はそいつに武器だの力だのって形で台本の一部を提供しちまったわけだ」

「俺が役者の設定を手直しし(ねじまげ)ちまって、最後にゃ俺にもどうなるか解らないっていう極上の台本(人生)なんだぜ? 最前列で見てぇじゃねえかよ、なぁ?」

(P58‐61)

 

とはいえ今回は出番は少なめ。まぁ4巻と5巻で現場仕事してたからね。

 

応援している警官の皆さんの出番はかなり多かったのだが、それはまた別の話なので、まぁ自分で読め。

 

7巻

 

偽ライダーやそのマスターへの対処、フラット・エスカルドス………………が引き起こした騒動、警察は今巻も大忙しだ。一応署長はどちらかといえば「黒幕」に入るんだけれども、それにしたってイレギュラーが多すぎる。こんな状況をコントロールしようと思うのがそもそも無理というもので……実際、「国」はもはやコントロールをあきらめた。……スノーフィールド消滅への、カウントダウンが始まったのだ。

 

そんな事を近いうちに知る事となる署長、オーランド・リーブ……そんな彼にデュマは、手作りの料理をふるまうのであった。伊達や酔興で好き放題食い放題していたわけじゃあないのである。

 

「召喚されてからこのかた、街の雑貨屋で売ってる固いゼリーにワンコインで買えるハンバーガー、貰った軍資金が目減りしちまう程の高級料理まで片っ端から喰わせて貰った。食い方もこの時代の礼儀に合わせちゃみたが、まあ、それなりに面白かったぜ?文句が無いわけじゃねえが、俺が時代遅れなだけかもしれねえから取りあえずは見に回った」
(中略)
「まったく、歴史の研究が進むってのは最高だな。俺がタイユヴァン料理長を『シャルル七世のの料理人』って書いたのが、今じゃ間違いって事になってるんだとよ。小説や戯曲だったら『シャルル七世の方が面白いから問題ない』って言えるんだが、よりによって料理事典でのミスが後から発覚とはな。もう一段階研究が進んでまたひっくりかえるかもしれねえが」
(中略)
「だがな、料理の研究が停まってねえってのは僥倖だったぜ。 現代じゃ、牛の腎臓の食い方も大分熟れたみたいだしよ。断言してもいいが、料理は人類の進化のエネルギー源の一つだ。三大欲求って奴だが、その中でも基本中の基本だからな」
(中略)
「昨日の晩餐よりも今日の晩餐を進化させたい、あるいはより美味く、あるいはより食いやすく、あるいはより安価に、手軽に、健康的に……どんな方向でもいいが、料理ってもんを一歩先に進めようって奴が一人でもいる限りは、人類の文化は停滞しねえさ」
(中略)
「とはいえ、だ。別に俺は料理は常に新しい手法が一番……とは思っちゃいねえぜ? 例えば俺が生きてる頃に食って一番美味かった羊肉のローストは、都会の最新の窯で焼いた奴じゃねえ。 ディアン=ディアンの遺跡を見物しに行った時に馳走して貰った、羊を丸ごと灰焼きにした砂漠の料理だ」

Fate/strange fake 7 P186‐188)

 

……チラっと調べてみたんですが、デュマさんマジで「食」に関してはガチっぽいんですよね……。ふむ、「料理大辞典」……機会があれば読んでみようかな。古い本なので読みにくそうではあるが……。

 

さて、署長にふるまわれたのはそんなお料理ガチ勢デュマ先生の手作り料理。食べてすぐに「あと48時間でこの街が消されます」と、キャスターから報告を受けた署長は……だからといってあきらめるわけでもなく。他の黒幕陣営とは別行動、最後の最後まで「市民の味方の警察官」としてふるまう事を決めたのでした。実際問題「街を更地にしたくらいで超巨大台風とか衛星飛ばしてくるやつとかどうにかできるもんなのか」という懸念は、その通りであった。8巻の神殿とか特異点と化してるみたいな話だったので、実際どうだったんですかね。

 

続く警官へのねぎらいの言葉とかも良いんですが……さて、これが本当に最後の晩餐になるかもと、そんな弱音も口から出てしまう程度には、状況は切迫しているわけである。「銃士たちよ、風車に挑め」は回数制限付き。新たに「遥か終わらじの食遊奇譚」を使うような材料も手元には無い。やや感傷的な気分になりながら……買ってきた「生前の知人」の著作を手に取るデュマ。

 

「まさか、あいつの本もいまだに世界中のガキに読まれてるとはねえ。『けものあぶらのロウソク』はあいつ結局売りに出さなかったのか? 未熟な頃に書いた作品だから売り物じゃねえとか抜かしてたが、俺はあれが一番好きだったんだがな......」
(中略)
「マッチの火の中に浮かぶ思い出か。あいつの意図はともかく、端から見りゃ俺達英霊も似たようなもんかも……」

Fate/strange fake 7 P199)

 

……パラパラとめくりながらそんな風に自嘲するデュマ。

 

……しかし何やら様子がおかしくて。

 

「ん?」
違和感を覚え、そのページを見直した。
「......あぁ?」
開かれたページは、寒空の下でマッチを売る少女を描いた童話のラストシーン。
違和感の正体は即座に判明した。
その結末が、デュマの知る本来の童話とまったく異なっていたのだ。
美しい思い出の中で凍え死ぬ少女というオチが、裕福な富豪の手によって救われ幸せに生き続けるという結末にすげ替えられていたのである。
「オイオイ......待て待て待て待て、マジかマジかマジか」
それはアメリカなど一部の国で出版されている、「悲劇の結末ではなく、ハッピーエンドに改竄したバージョン』の絵本だったのだ。
「お前……こんなよぉ……」
著者名などを再確認しながら暫くポカンと見つめた後、デュマはワナワナと手を震わせーー

Fate/strange fake 7 P199‐200)

 

……続く台詞というか反応は、一応隠しておこうかな。まぁ、心配するような人もたぶんいないと思いますが。

 

あー、いやあ、良いんだよなぁ、アンデルセンとデュマの関係……もう数年前のエイプリルフール企画で、この二人はちゃんと顔を合わせて会話してるんですよ!その時の締めというかなんというかになるのもこの「マッチ売りの少女」だった……と思います。もうオフィシャルな手段で読み返す事はできないのだ……探せばどっかで保管してはいると思うが、まぁ……公式さんはたぶん消しているはずなのだ……。

 

とはいえ、知人の作品と、あるいは現代の出版社によるアレンジにより、多大な刺激を受けたデュマは、気合を入れなおして聖杯戦争に、改めて臨むことになるのでした。

 

アンデルセンにとっての「マッチ売りの少女」がどんな作品だったかをどうやら知っているらしい辺り、お前らどんな会話してたんだよ、となる。お前、アンデルセンにとってのそれは、お前……めちゃくちゃ重要なヤツじゃないのか……?

 

8巻

 

zattomushi.hatenablog.com

 

最新刊ですしこちらでも書いたので、ここではあっさりと。

 

気合を入れなおしての「第一作」は、現代に新たな神殺しの伝説を生むにいたったのであった。

 

本当、エルメロイ先生と合わせたらダメだぞ。全然関係ないパーツから特定サーヴァントの弱点を無理やり突く無法コンボが完成してしまう。

 

 

 

 

まとめ

今回改めて読み直して、やはりデュマは俺の好みのキャラクター……「テンションが高くて台詞の長い男」類だと、改めて認識した。芝居かかった台詞が好み、という事になるのだろうか。

 

独自の価値観、あるいは判断基準、それらをしっかり言語化し、他者に伝える。なんとなくそのあたりがこの類例の魅力なのではないかと思い始めているが、それとはまた別の話でデュマは大変に魅力的なキャラクターだ。

 

今後の聖杯戦争でも、どうか彼が楽しんで、笑いながら終われますように。

 

 

 

……そしてFGOにできるならば低レアで実装されますように!

*1:あと非公式Wiki

*2:平時にしていいっつったらすると思うけれども。

*3:そしてそんな相性を小賢しいとばかりに粉砕するめちゃくちゃな出力ゲーとしての要素も併せ持つ