節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

笑顔が素敵な成田キャラ!(それは笑顔というにはあまりにも獰猛すぎた)

笑うという行為は本来攻撃的なものであり

獣が牙をむく行為が原点である

(シグルイ 4巻16景「牙」)

 

……いきなり成田作品以外から始まってしまいましたが、今回の人選が決まった後、一番初めに思い浮かんだ言葉なので……今回の企画のテーマに、冷や水をぶっかける様な言葉なので少し心苦しいが……いやでも、割と返り血にまみれた笑顔の画像とか投下されているような気がするな。じゃあ大丈夫か。「本質」の可能性がありますね。

 

誰もそういうのやらないでほのぼの系の画像で埋まるようなら、それはそれで一興か。一人でここで「攻撃力」の高い彼らの話をするとしよう。

 

 

エルマー・C・アルバトロス

 

「そう、笑顔になる。祭りになるとみんな笑う。スマイル、そう、スマイルだよ!あれだ、突然こんなこと言うのもなんだけど、君みたいな子供は笑ってた方が可愛いぞ?まあその、なんだ、こんなセリフは月並みだけど、クリスマスにはキミに笑顔をプレゼントしてあげよう!きっと可愛いぞ、とても可愛いぞ、すごく可愛いぞ!同い年の男の子達にモテモテだよ!」

(Baccano!2001 The Children Of Bottle P33)

 

 

引き寄せの法則だとか、そういうスピリチュアルな方向においては、「笑顔でいるのは良い事だ」という思想が、一定の幅を利かせている。実際、ある程度は真理であろう。日頃から仏頂面でいる奴と笑顔でいる奴なら、まぁ笑顔でいる奴の方が親しみやすく、人間関係が良い感じに回り、その関係で仕事や日常なども円滑に回りそうではある。

 

それはそれとして、人間そんな常日頃から、ニコニコ笑顔でいられるわけもない。ある程度は「笑顔でいるのは良い事だ」……を真理であるとは認めながらも、ついつい仏頂面になることはあるだろうし……その日のテンションによってみれば、この考えを否定したくなることもあるだろう。

 

「笑顔でいたからなんなんだ」

 

と、そんな風に。

 

さてここまでは常人の話。

 

ここからはエルマー・C・アルバトロスという不死者についてのお話だ。

 

エルマー・C・アルバトロスは不死者である。不死者とは「死なない人間」の事である。不老不死、というやつで、ある一つの例外を除いては、この世からその存在が消えることはない。明らかな異常存在だ。しかし、エルマーを語る際に、実はこの性質について語るのは二の次になってしまう。

 

彼は「笑顔中毒者」だ。自分と他人がどうすれば「笑顔」になるのかをどこまでも探求し、また「笑顔」にふさわしい結末……多くの場合においては「ハッピーエンド」と言われるそれに向かって邁進する。

 

エルマーについて語るなら、まずこの性質についてが一番先に来る。この文章だけを読んだなら、きっと彼を知らない人は、彼を善人だと判断するだろう。実際、それは間違いでは……ええと、うん……少なくとも彼によって助けられた人は一定数存在するので、「善行もする人」の略称である「善人」ならば、まぁ間違いではない。

 

なんでこんな遠回しな言い方になるかと言えば、「悪行もする人」だからですね……比率でいえば、どちらかといえば……?彼が単純な「善人」ではない、というのは、作中にわたって再三にわたって言われていることなので、私もそれにならうとしよう。

 

さて、彼のこんな性質は、彼の「出生」に深くかかわっている(……のか?理由のない突然変異という気もするが……まぁ完全に無関係じゃないだろう)。それがどんなものだったのかは、実際に作品を読んでもらうとして、彼が不死になったのとこの性質については、実はあんまり関係ない。「生まれていつか(恐らくは割と早めに)死ぬ変な奴」が、「なんかいつまでも元気な変な奴」になっただけだ。

 

「俺はな、戦場とかを行ったり来たりしてる間によ、そんな甘い考えの奴が死んでいくのを何度も見てきたんだ」

「そりゃそうだよ。当たり前じゃないか。敵の事まで気遣う人が、何かを守る為に全力で殺しあう戦場で生き残れるわけが無いじゃないか。だから俺なんだ。死なない身体だからこそ、俺は全力でこの考えを押し通す。いや、押し通さなきゃいけないと思ってる。なんとも傲慢で卑怯な考え方だとは思うけれどね」

(Baccano!2001 The Children Of Bottle P275 原文では「だから俺なんだ」が傍点により強調)

 

最も「いつまでも居る」なりの覚悟だとか、そういうものは決めたようだが。彼にとって時間は無限のものだけど、それにしても求めるモノは果てしない……「みんなの笑顔」を、彼が見るのは果たしていつの事になるのだろうか。その道中には、これからもぜひ注目していきたい。

 

「笑顔でいたからなんなんだ」と言われれば、まぁとりあえず彼が喜ぶ、というのは間違いのない答えとして……あ、駄目だ、コイツ、作り笑い、愛想笑いは100%見抜けるんだった。冒頭の話は忘れてください。

 

最も彼について一番好きなシーンは、そんな彼の顔から笑顔が消えてマジのアドバイスをする下りだったりするのですが。

 

「もしかしてそれ、不死の酒?」

床を転がりながら瓶の蓋を開ける男を見て、エルマーは笑顔を消して尋ねかける。

「あー。だとしたらさ、今は飲まない方が……」

(Baccano!1932‐Summer man in the killer P315)

 

このシーンは……なんというか、「悪役が手痛い失敗をするその数秒前」で、ネタバレして言ってしまうと、「この状態で不死の酒を飲む(=不死になる)とお前マジで死ぬぞ死なないけど死ぬぞ」みたいな状況なんですけど、エルマーはそんな「悪役への因果応報」についても、かなり真面目に、その表情から笑顔を消してアドバイスするのですね。

 

なぜなら、それはこのままだと、彼が自分の求める笑顔から遠ざかってしまうから。実際この後すぐ説明と事後のフォローも提案してくれるし……。彼が求める「みんなの笑顔」は、マジで「みんな」なのです。老若男女、善悪その他関係ナシ!

 

 

 

ヴォッド・スタルフ

【ヴォッド・スタルフというのはとにかく小物だ。自分の優位を得るためならばどのような悪行も厭わない。わざわざ敗残の将の顔を踏みにじりながら恨み言を聞くのが楽しみだというような感じの奴でな。奴とは長い付き合いだが――最初に会った時は路地裏で死ぬ寸前の麻薬中毒者から金を奪って得意になっていたところだったな】

(ヴぁんぷ! P247 文字の色は管理人による)

 

 

ヴォッド・スタルフに対するこの評は実に的確。たしかに彼はこういう男である。さて、そんな男の職業は、さて何か。合法の仕事ではないだろう。ヤクザ的な裏稼業か、明日をも知れぬギャンブラーか、上記の「麻薬中毒者」は彼の被害者ではなかろうか、すなわち違法薬物の栽培人、売人……そもそも定職に就いているのか?

 

就いています。公務員。市長。グローワース島はノイルベルク市の市長、それが彼、ヴォッド・スタルフだ。

 

なんて恐ろしい事だ!彼の本性は上記の通り。そんな男が市長になってしまったのだ。さぞかし権力を笠に着て、横暴の限りを尽くしているに違いない!……いや、まぁ、そんなことはないんですが。確かに本性はああいう男ですが、市民の前ではキッチリと、しっかりと仮面を被っておりますし、公約はきちんと筋を通して守るその姿に、案外市民からは親しみをもたれているようです。

 

そもそも彼は半人半鬼(ダンピール)。昼の世界からも夜の世界からも煙たがられる、どちらにも居場所のない存在……そのはずでした、本来は。ところが彼はその立場を逆にしようとしている。昼と夜のどちらにも自らの居場所をつくるべく、というか、昼と夜のどちらも自分がまとめるべく、その活動の第一歩として、市長の立場を手に入れた努力の人でもあるのです。

 

努力して誰かに勝とうとする。これ自体はとても立派な事だ。……彼の場合、勝った後のふるまいがとにかく小物っぽくて、その上で実の所勝っていなかったりするから、色々評価を下げているのだけど、上で彼を評している子爵にしても、彼のことを嫌っているわけでは決してない。どころか割と認めている。

 

そんな彼の笑顔には、「市長」としての笑顔と「吸血鬼」としての笑顔の二種が存在し、幸運にも、そのどちらもが挿絵付きで描かれている。市長としての笑顔はⅡ巻、お祭りの最中にインタビューを求められてのさわやかな笑顔である。……え?こめかみに青筋が浮き出ている?……なんの話です?

 

……そして「吸血鬼」としての笑顔……「いつも通りの下品な笑み(P310)」が見れるV巻では、なんとそんな彼の「過去」までも見ることができるのだ!

 

ドン底から頂上まで這い上がる、その努力!それをもって消すことのできない小物っぽさ!作中最大規模のインフレバトル!からの、ジャイアントキリング……!?

 

ヴォッド・スタルフのこれからに、どうかご期待……!

 

……言わぬ!今回は19周年記念企画なので!

 

「俺は負けず嫌いなんでな。10歳のガキ相手にわざと負けてやることがあっても、10年後にキッチリとリベンジしてやるから覚えとけよコラ」

(ヴぁんぷ!V P390)

 

平和島静雄

 

――俺のことを愛してくれる奴の前で、倒れるわけにはいかないだろ?

デュラララ!!×2 DMMBrooks 電子版 P278)

 

 

(成田良悟作品でテーマが『笑顔』……誰だ?……エルマーはとりあえず一番の安牌として……)

 

(……『デュラララ!!6巻の平和島静雄のめちゃくちゃいい笑顔』……国民栄誉賞……)

 

(……いやでも、あの顔は……笑顔……?)

 

(あの顔は……笑顔……?ううむ……静雄……)

 

……今回の冒頭が「あの文章」になってしまったのは、もしかしたら割と早い段階で「彼」に思い当たってしまったからかもしれないですぜ……。

 

平和島静雄は、人間だ。不死者だったり吸血鬼だったりはしない、いたって普通の人間だ。……あくまでも種族的には、そのはずだ。

 

ところが彼はめちゃくちゃ強い。エルマーのような不死者にも喧嘩で勝利しているし、色々と特殊な能力を……色々とあって手に入れたヴォッド・スタルフにも、恐らくは勝てるだろう。……勝てるだろうか。……強さ議論は荒れるのでやめますか。ともかく種族的にはただの人間なのだけど、成田作品では割と上位に入る実力者だ。

 

少し自分語りになるけれど、俺が「成田良悟の作品」に触れたのは、デュラのアニメがきっかけだった。その時は友達に3巻まで借りて……確か、アニメ化時点で販売していた、7巻までを一気買いしたのだったか。当時の自分には割と大金だったはずだが、お年玉でもつかったのかな。初のラノベ購入で、親からはあまりいい顔をされなかったとか、そういうことも覚えている。そこから少しずつ成田作品を集めていったのだなぁ。覚えている覚えている。

 

覚えているついでに「なぜ一気に7巻まで揃えるほどに惹かれたのか」を考察すると、これはもちろん展開の面白さもあるけれど、特にキャラクターとして平和島静雄が好きで、その中でも挿絵でいうのなら、2巻の静雄の獰猛な笑みに当時厨二だった自分は惹かれたのだろうと思い当たった。

 

であれば、今回のテーマの俺が描く文章に、やはり平和島静雄はふさわしい。

 

2巻の獰猛な笑顔、そして5巻の国民栄誉賞、どちらも良い笑顔でしたとさ!

 

……国民栄誉賞がどういうシーンだったのかは、なんで俺が「笑顔……?」と悩んでいたのかは、まぁ読んでみてくださいな。……別に深い意味はないけれど、この記事冒頭の文章、もう一度貼っておこう。

 

笑うという行為は本来攻撃的なものであり

獣が牙をむく行為が原点である

(シグルイ 4巻16景「牙」)

 

 

 

……さて、書けそうだと判断したキャラ3人について、色々と書いてはみたけれど、こうしてみると改めて「攻撃力が高い」というか……言葉を選ばずにいうと、物騒な奴らが揃ってしまった。これで良いのだろうか。

 

良いのかもしれない。

 

エルマーは変な奴で、ヴォッドは小物で、静雄は作中色々出てくる人外連中の大半を押し退けて強い奴だが、だからと言って「笑ってはいけない」という法はない。それは成田作品に登場する、もっとアレな人たちについても同じ事。

 

彼ら彼女ら、その他諸々、まだ見ぬ連中も含めた「変な奴」は、これからも、笑ったり泣いたりを繰り返し、作品の中で生きていく。

 

そんなわけで、最後はBaccano!アニメの最終話のタイトルで締めよう。

 

不死者もそうでない者もひとしなみに人生を謳歌する

(アニメBaccano!-バッカーノ!- 13幕タイトル)

 

願わくばその人生が、少しでも長く続きますように。

 

成田先生、19周年おめでとうございます!