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……俺は好きですよ。
という事で今月のワンドロはステルス交境曲です。
この作品について語るのはやや難しいというか、少しばかりデリケートな問題がある作品でしてね……。週刊少年ジャンプで成田良悟先生が原作を務め、天野洋一先生が作画で連載をしていた作品なのですが……。……まぁ、早い話、打ち切りになってしまったのです。
これについては単行本の話の間に含まれる単話解説であったり、あるいはキャラクター紹介のページだったりに「もう少し続けばこうなる予定だった」、「こうなる案もあったが編集会議で変更になった」、等細かに書かれているから……別に隠しているわけでもありませんので、言ってしまいましょう。
何ならキャラ紹介ページ、「名前だけ出てきた奴」とか、「小さく後ろ姿だけ描かれてた奴」とか、「……お前は本当にどこにも出ていないんじゃないか?みたいな奴」とかも含めて色々居ますのでね……。彼らの活躍を書けなかったのはさぞ無念だっただろう、という気分にはなってしまう。
……ここでジャンプの「アンケート至上主義」であるとか「短期打ち切り」であるとかの功罪や私見についてああだこうだというと長くなるし「ステルス交境曲」とはまた少し逸れた話になってしまうのでやりませんが、「本来話としてはもう少し続く話だった」のを、「でも、そうはならなかった」と語るのはどこか寂しいモノではあります。
……まぁ、「だからここでこの話はおしまい」なのかと言われたらそうでは無くて、この作品を経て「クロハと虹介」であるとか、あるいは「デッドマウント・デスプレイ」であるとかの漫画作品につながっているのも確かですし、何よりその計画外の終わりでさえも、締めるべき箇所はしっかりと締めている、その「終わり方」はかなり好きな部類なので、語っていこうと思います。
別れは寂しいが、それでも仕事は続くのさ。
さあ仕事を始めましょう。
〈物語〉
……とはいえ「終わり方」についてああだこうだと言ってしまうとかなりの部分で「ネタバレ」になってしまうのが辛いところでありますが。
……今から単行本で読むならば……「主人公はあくまでも『彼(A)』である」「故に『彼(B)』は主人公ではない」というのは、まぁ……言ってしまっても良いだろうか……?
……言おう!どうせ合間の解説で再三言われるしな!
エルフやドワーフなど、様々な種族が集まる大都会・神防町。この街でトップの業績を誇る警備会社V&Vには、とりわけ際立つ存在が。彼の名は藪雨トロマ、空気を読まないマニュアル人間にして…、透明人間!?
(ステルス交境曲 1巻 カバー裏より引用)
主人公の名は藪雨トロマ。
透明人間かつマニュアル人間の彼は、ある日とある少年に護衛を依頼される。少年の名は、雲沼ジグ。
敵意や害意、あらゆる攻撃に反応し、自動で反撃してしまう「倍返しの呪い」を掛けられたジグは、「解呪師までの道中、自分から周囲の人を護衛してほしい」という奇妙な依頼をきっかけにして2人は出会い、さまざまな種族が共存する神防町様々な事件に巻き込まれていく事になる……というのが、ジャンプで連載していた2話からの大体のあらすじです。
1話はなんかジャンプ派生雑誌の読み切りに載ってたんじゃなかったかな。時系列的には連載の前日譚にあたり、その上で連載本編にもちょっと絡んでくるので、これが「1話」なのは間違いないのですが。
様々な種族、というのは本当に様々でしてざっと主要登場人物を挙げていくと透明人間、吸血鬼、人狼とエルフのハーフ、忍者(人間で良いのかな?)、ゴブリン、人魚、そして竜……様々な登場人物がわぁきゃあと楽しく大騒ぎします。
とはいえ主人公のトロマさんは人格面についての語るべき部分が何もなく、ジグ君はもうなんかあんまり細かい事をいうと本当にそういう事になっちゃうから、語るには困る人たちなのですが。……そういう所でわかりにくい作品ではあったのかなぁ……。
藪雨トロマ、透明人間。夢も目標も信念も何もなく、ただ「顧客を守る」という警備会社「V&V」の就業規則・理念を純粋に守るだけのマニュアル人間。彼がジグをはじめとする様々な事件をきっかけに、どう成長していくのが本作の見どころ……いや、実際3巻のうちでしっかりと、「変わり始める」ところまではしっかり行くので……願わくばもっとしっかり、「こう変わった!」というのが見たいというのは素直な気持ちとしてはありますが!
主要登場人物の中では「虹神アリス」が好きでしょうか。1話から登場している吸血鬼で、その役割については色々難しい部分はあるんですが、まぁ基本的にはトロマの同僚、V&Vの社員の1人、という事で良いでしょう。1話で色々あった後、V&Vに入社した彼女は、トロマの後輩の1人として今日も護衛の任務を頑張るのです。
営業成績は速攻でトロマを抜きました。
まぁ……営業の面で行くとトロマさん色々デバフあるし……。
戦闘時とか感情が昂った際に、意図的に人格を切り替えるタイプの娘でして、そのどちらもがキャラとして成立しているうえにその『切り替え』のギャップで良い感じのキャラクターです。どちらが好きかは各々好みがあるでしょうし……、まぁ、好きにも色々ありますよね。
<終盤>
というわけで2巻の最終話(13幕)から3巻にかけて、物語はついに終盤へ。
現れるのは本作随一で俺が「好み」のキャラクター、大資産家のスライスさんです。
世界で二番目の大富豪。悪の組織のスポンサー。当初はもっと小物然としたキャラクターだったところで、天野先生の画によって強化されたのだとか……つまりは麗蕾族である。
とある事情により虹神アリスを狙う彼は、果たして何を目的に神防町を訪れたのか。
そして明かされる、雲沼ジグの「秘密」とは。
……最終盤においては、間違いなく彼を抜きにして語る事はできないほどの名キャラクターでした。なんであのノリで出てきて本当に最終的にはうっすら町の味方側に立っているんだあなたは。
……読み返して改めて思ったけれども、別にアリスちゃんを狙う理由も、言うほど理不尽ではないからねぇ……。本人が直接来てくれる分だけまだ対処のやり様があるというか、これ普通に司法・行政面から責められたらアリスちゃん何も弁解できないのでは……。
確かに明らかにやりすぎな面はあるけれども、構図としては強盗が「アイツの家マジでヤバいんですよデスゲームとか開催してて危なかったから盗るもん盗ってとっとと逃げてきたわ」とか言ってるようなもんというか……マジでそれというか……あとアリスちゃんその能力使うとき絶対周囲の金相場の事とか考えてないよね?割とその能力使うとき神経使わないとダメなやつだぞ?とか、色々踏まえると「まぁ割と厳しめに一言いいたくなるのは解る」と、そんな感じの塩梅のところに落ち着く、変わったタイプの人でした。
どちらかと言えば悪い人なのは間違いないですけれどもね。成田作品の「大富豪」は敵に回したらダメ。ベリアム上院議員とかでも十分ヤバい。……そう考えると、まだ穏当なほうなのか?意外と話が通じる方ではあるし……油断したらダメなんですけれども、とりあえず金のやり取りは公正な人です。
あとはラスボスというか、院長先生のトドメとなったのが、ジャーキングとライカという、本当に院長先生からしてみれば「誰?」という人選だったのも、物語の幅というか、そういうのを感じさせて個人的には好きなポイントですね。
目立たなかったかもしれないが、それでもお前の被害者で、そしてただの「やられ役」ではないんだという、ある種の群像劇としてのしっかりとしたメッセージになっていたのかな、と思う。
そしてジグ君……これについては、まぁよく「ジャンプ」でこの味で終わらせることができたなと思う程度にはビターな味わいとなっているわけですが……それも含めて珍しい味わいで、良いと思います。再会の目も、なくはないらしいですし。
仕事をしていれば、またいつかは会えましょう。
あとはまぁ作者公認最強キャラ枠がスリ師なのに「戌井から財布をスった島のスリ師」を思い出したり、3巻のラストで「棺原ラディ」と思しき文字列が出てきてたり、「そもそもこの『異世界』と『日本』の関係ってもしかして……」とか色々「他の成田作品」を知っていればより楽しめる部分はあるので、まだ読んでいない方はぜひどうぞ!