デッドマウント・デスプレイについてはこのブログで何度か触れてきた。
そんな記事を前提としつつ、さて最新刊、7巻が発売されたのです。後者の記事は本編の1話を読んだ後に読めよ。
これを機に今回は、今までの感想記事、紹介記事とは趣向を変えて、巻末小説に焦点を当ててまとめてみよう。
デッドマウント・デスプレイはもちろん漫画なのですが、毎巻巻末に10Pにも満たない短いものではあるけれど、小説がついてくるのです。漫画の舞台である「現実世界(新宿)」とはまた別の舞台、「主人公のいなくなった異世界」がメインとなっているもので、短いページではあるが、この物語にとって欠かせない魅力となっている。
内容としては、漫画の内容を「相互に補完」しつつ、それぞれ別のストーリーライン(使い方としてあっているか不安)が進んでいく、そういう感じですね。漫画でちらっと描かれたキャラクターが小説でガッツリ登場することもあるし、逆もあるかもしれない。……既に描かれているような気もするし。ラザム連邦の『商人』って、つまりは……とか。
解りやすいのは、『世界の敵』関連だろうか。
「浮遊工房から世界中に危険な『失敗作』を落とし続ける錬金学士の『パニ』」
「副業で暗殺者をやってた陰鬱な吸血貴族の『シルク』」
「ヌャンイルド王国の『先帝殺し』」
「『廃毒竜ピラウィッゾ』」
(3巻 20話)
と、一人一コマ未満でザーッと紹介された『異世界の愉快な登場人物』連中が、巻末小説にて堂々と登場するわけだ。
「そう! 恐らくは君の想像通りだよ! 正解です! おめでとう! やったね! 景品として自己紹介してあげよう! ボクがパニだ。 『世界の敵』のパニ! 宜しく、リクレア!」(6巻 P252)
「シャグルアさんの殺害を請け負いました……シルク・マラクーガーと申します」
(中略)
己の目の前に立つのが、世界の敵の一人と数えられし強大な吸血鬼であると。
(7巻 p242)
そして、目の前に舞い降りた『それ』を見て確信する。かつて自分が戦い、退けた竜種——数年前にヌャンイルド王国を危機に陥れた、『先帝殺し』の字を持つ存在であると。
「廃毒竜……ピラウィッゾ……!」
(4巻 p240)
……とこんな具合に。出る前に考えていたキャラとはかけ離れていたりして、それもまた楽しい。ピラウィッゾさん、思ったよりも強い&ノリ軽い。いやノリが軽いというかなんというか。パニとかシルクさんはイメージ通りだったんですが。
……さて、この様な「相互補完」が行われる一方で、当然「チョイ出っ放し」のキャラクターや要素も存在する。これがまたウマいところなのだが、この「チョイ出っ放し」の連中ですらも魅力的で、いつ誰が回収されても嬉しい、という、良い感じの塩梅となっているのだ。
そんな「チョイ出っ放し」のキャラクターの中から、個人的に気になっているのを何人か紹介します。ひょっとしたら単行本になっていない本誌の方では既に登場しているかもしれませんね。まぁ、俺は会えてねえので。
閨閤竜アラフォン
寡夫竜ハリヴォン
獄殺竜ララ
竜の中で、積極的に人間に危害を加えるものは半分ほど。それも大半は「大型の肉食動物が捕食のために」の延長であって、悪意を持って害する者はほとんど無い……ほとんど。ごく少数の例外は、いずれも大変な事になるのですが。
そんな中でこの三頭は、果たして何をやらかしたのか。
曰く、『閨閤竜アラフォン』は、とある国の男性達を執拗に殺し続けた。
曰く、『寡夫竜ハリヴォン』は、とある国の女性達を念入りに殺し続けた。
曰く、『獄殺竜ララ』は前者二頭の竜を喰らい、両国の生き残った者を特に導かなかった。
(5巻 p223)
まぁ綺麗な三段落ち。
一番物騒な名前の『獄殺竜』が一番人的被害が少ない(0って事はないだろう)ところと、そんな『獄殺竜』ですらもやっぱり人間の味方という訳では無い、その2点が好みのポイントですね。なんというか、『シヴ山のドラゴン』のフレーバーテキスト感がある。
100人からなる隊商がドラゴンと遭遇した。
いけ好かない隊長は一計を案じ、奴隷娘を1人馬車から蹴り落とした。
残り99人の命を奴隷1人の命で救えるなら安い買い物。
ドラゴンは娘1人と護衛兵の付いた手強そうな99人を
見比べると、迷いなく後者を襲撃した。
大きい肉と小さい肉。導かれる答えはひとつだ。
……え!?これ、MTGのフレーバーテキストじゃないの!?割とガチでびっくりした。MTGのカード(キャラクター)である「シヴ山のドラゴン」が、ロードオブヴァーミリオンという別のゲームとコラボした時に設定されたものだそうです。はえー。
この記事でも少し触れましたが、大自然のアンジャッシュというか、生物……人間以外の種族がそれぞれの論理に基づいて行動した結果、そこに何か道徳観のようなものを『見出す』という状況が割と好みなので、ララさんには是非とも何かコメントをいただきたく思います。
前者二頭、アラフォンとハリヴォンもなんでそんな事をしたのか気になりますが、食われちゃったからなぁ。名前が似てるが、夫婦だったりするんでしょうか。夫婦の名前が似ているのはおかしいか。親子?
……何やら昼ドラめいた過去があるのやもしれませんね。
あと彼らの名前にどこか既視感があったのですが、たぶんツイフォンですね。怪彗星!
……ウルトラマン超闘士激伝でその真の姿が明らかになるそうです。今度読んでみよう。元日からウルトラマン放送っていうのも、すげぇ話だな。
道化竜ノルダ
曰く、『道化竜ノルダ』は、今も毎日つまらない喜劇の脚本を書いて劇団に送り続けている。
(5巻 p223)
洒落にならない被害を出している3頭に並ぶ形でポツンと書かれた紹介文。お前はなんなんだよ、という枠だろう。なんで俺の脚本を採用しないんや、と暴れたりもしていないようだし、本当にただ送るだけなんでしょうね。書いて、送って、駄目だったかー、となって、また書いて、送るのでしょう。
うぇい。良いじゃないか。
あと「道化」と「脚本家」は成田作品において相当な強属性なので、そこも注目していきたい。確実にテンションが高く、セリフの長い男であろう。男かは知らん。竜種はそれぞれの個体の数だけ性別があると考えた方が良いと、ピラウィッゾさんが言っていました。
ちなみに竜種は人間のような形態に変化することもできるので、原稿を書くには別に不自由はしないはずです。
あと「道化」なんて名前なのに脚本書く方なのは、なんでかしら。当初は自分が舞台に上がってたりしたのだろうか?そうなると本当にシェイクスピアみたいな感じになりますが、残念ながら彼とノルダの間には、「脚本の出来」という致命的な差があるのでした。南無。
緋色の祝福 ポー
曰く、戦場で雑兵の誰かに取り憑き、戦場の勢力図を一変させる亡霊『緋色の祝福』ポー。
(6巻 p245)
竜ならざるは「世界の敵」。それぞれに社会に溶け込みつつも、圧倒的な個としての力を持つ存在の1つ……そして溶け込むもなにも彼は亡霊であったのだ。彼かな?どうだろうか。
ひょっとすると核の抑止力的なものに為ろうとしているのかもしれない。愚かな人類の争いを諫める役割を担った、優しき亡霊なのかもしれない。それはそれとして、争いがなくなったら別にその辺の一般住人に憑りついて凶行に及ぶロクでもない亡霊なのかもしれない。
たった一行の紹介文から、そんなところまで想像できるほどに心掴まれた。これが何故かは謎である。なんででしょう。キャラデザとか何にもわからんのだけれど。
『緋色の祝福』って取り憑かれた一般モブ兵士が「ヒーロー」のように活躍できるところから来ているのかな、でも取り憑かれて周囲切ってたら実は全員味方でしたなトラウマ展開あるのかな、勢力図を一変させるって言うんだからその辺りは考えて動いてくれるんじゃね?でもそんなウマい話ある?アテに出来そうな確率でもないしいいんじゃね?
とか、いろいろ考えました。
他にも色々と面白そうなキャラクターがいるので、是非とも読んでいただきたいですね。
アニメ化とかしてほしい。アニメ化したら小説パートどうなんだろう。チラッとでもキャラデザが解るんでねぇの?
わぁい、楽しみ。