HUNTER×HUNTERの最新刊……37巻が発売し、また連載が再開した。
相変わらずの情報量……凄まじい「密度」である。間隔が空いてしまうのは、もうこの際どうしようもないので……お身体の具合の事ですし……以前の話を読み直しながら、現状の連載を追っています。レオリオとチードルって乗船してますよね?出番がないだけですよね?ジャンプでの連載の方にいずれ出るんだろうか……。
さて37巻を読んでいて、一番「あー、俺はいまHUNTER×HUNTERを読んでいるわー……」ということを最も実感したシーンについて、いろいろ書いていきたいと思う。
ネタバレ注意!
該当のシーンは、389話「呪詛」でバショウ*1が「シカク*2の自殺は『死後の念』を発生させるためであり、ベンジャミン私設兵の対応がゴタついているのは自作自演なのでは?そして、その『死後の念』の対象はルズールス王子……と、見せかけてほかの王子では?」と考察しているシーンだった。今日はこのシーンやその周辺について、いろいろと思ったことを書いていく。
まず第一に、バショウのこの考察は「外れ」である。
シカクの自殺はベンジャミン、およびその周辺人物にとって全く想定外のことであり、私設兵の対応がゴタついているのは演技でもなんでもなく、単純にゴタついているのである。
これは細かな描写を読み取っていった一部の読者が深い考察の末にたどり着いた結論……とかではなくて、もう単純に「シカク、なんで自殺したの?」と慌てるベンジャミン陣営の対応が直接描かれており、なんならこの考察が行われた389話の冒頭、まさしくそれについての会議が行われている。
つまりあまり考察などせずに……書いてあることを素直に書いてあるだけ受け取るような読者(誤解を招くといけないのでそういう読み方でもなんら問題はない、とはしっかり書いておく。……HUNTER×HUNTER、それだけでもしっかり読めたら大したもんだしね!大体の「テキスト」がそうである、という説も根強い)であっても、この考察が「外れ」であるのは解るのだ。
しかし第二に、この考察は「的確」ではある。
シカクの自殺は、ベンジャミンを称えてから即座に行われたものであり……それを「ベンジャミンに有利な行動をとる意思を固めるためのモノ」と考えるのであれば、「自殺して死ぬこと自体が目的」と考えるのは自然なことである。そして「死後の攻撃」を可能とする「死後の念」が世界観にある以上……それを警戒するのも、また自然。
そしてその論の1つである「階級組織は構成員の命も平気で弾に使うからな… 『死後の念』使いが複数いても全然不思議じゃない(P177)」というのは、同話の中で回収される……ベンジャミンとは別の王子の部下には、まさに「己の死を以て対象を呪殺する」……そんな念能力、「つじつま合わせに生まれた僕等(ヨモツヘグイ)」を所持する部隊があったのである。
ただまぁベンジャミンとは別の王子なので、シカクの自殺には一切関係していないんだけれども。部隊の皆さんも「シカク、なんで死んだの……?」してましたわね。「自分と同じ呪殺系の念能力か…?」とか考えておりました。これもまた「外れ」なのですが。
この二点から、俺がバショウの考察を読んだ際に「HUNTER×HUNTERらしさ」を感じたことにより、「読者視点では明らかに間違いであるとわかってはいるけれども、それ自体を考えるのは至極当然な考察」を読んだ場合、俺はそれを「HUNTER×HUNTERらしい」と感じるのではないか、と考えた。
提示された謎に対し、即断で『正解』を選び取る……これは、まぁ、書けるといえば書けるだろう。特に今回のような、「シカクは何故自殺したのか?」のような、登場人物の行動の目的を問うような謎の場合には、「行動させた(=謎の出題時点で)作者に正解が解っている」のだから。
……無論、長期の週刊連載という現場においては作者本人にも「……なんでこの時こいつこんな行動をしたんだ……?」となってしまうようなケースがあるにはある、だろうといのも承知しているが、とりあえず今回はそれについては置いておく。いやまぁ、瞬間的な面白さというのも大事な要素なので、一概に悪手とは言えませんが。連載が長期化するにつれて矛盾しちゃったり、大変だよね……。
ともかく作者に正解が解っている場合には、正解を即断させるのは簡単だ。動物的な勘で、直感として正解を選ばせるも良し。キャラクターの視点での描写から、理詰めで正解にたどり着かせるも良し。……読者がそれに納得してくれるかどうかは別として、正解に辿り着かせる……ことならばできるだろう。読者がそれに納得してくれるかどうかは別として。
あとこの後「じゃあ『目的』が解ったうえでの最適解を打とうか」みたいな話になってくるのですが、これはできるとは言いません。俺には言えません。できる人はマジですげぇなぁと思います。……実際のところ、「俺はなんでこのキャラがこれをしたのか、は解っているけれども、それを別のキャラにどう推理させたものか全然わかんねえなぁ」とかも、大いにあり得ることだろう、とも思っています。……勘を使うか。多用さえしなければ、そこまでバレへんはずなんだ……。変な感じの理屈付けちゃう方がダメージがデカい……ような気がする……知らんけど……。
転じて、提示された謎に対し、「誤答(いやまぁでもそう間違っちゃうのも無理はないよね、くらいの惜しさの間違い)」を返す、これは「正解」を選ばせるより、はるかに難しいのではないか。なぜなら、「誤答(いやまぁでもそう間違っちゃうのも無理はないよね、くらいの惜しさの間違い)」は……作者にもすぐにはわからない。作者が作者として持っている知識や世界観、キャラクターなどの脳内設定を一度全部捨てたうえで、その登場人物の立場、精神状態、脳内の知識などなどをシミュレートしてみないと、「誤答(いやまぁでもそう間違っちゃうのも無理はないよね、くらいの惜しさの間違い)」にはたどり着けないのだ。
そして苦労してキャラクターに間違わせると……なんとキャラクターが間違った行動を取ってしまうのだ!
間違った行動を取らせると、キャラクターの「格」みたいなものが、読者の間で多くの場合下がってしまう。なんなら「間違いようしかないキャラクターが間違えた」場合でさえも、「格」みたいなものが下がってしまう。苦労したうえで「格」が下がるのだとしたら、マジでやってられねえよなぁ。
今回のバショウの考察はまさにこの点を上手くフォローしたと思っていて、「バショウの考察は間違えている」けれども、「その考察の論拠となっている論自体は的確であり、実際別のキャラクターはその論を元にして行動をしている」というのを、1話の中で上手く描写した当たり、「富樫には敵わねぇなぁ!」と思いました。
あとHUNTER×HUNTERを読んでいてこの感覚を覚えたのは初めてではない、以前にも「読者視点では明らかに間違いであるとわかってはいるけれども、それ自体を考えるのは至極当然な考察」を読んだ記憶があるぞ、と読み返してみたのですが、どうやらあのシーンですね。
……ちょっと間隔を開けるので皆さんでどのシーンか考えてみてください。
たぶん候補自体は複数あるんですよ。
その中でも俺が特に印象に残っていたのはどのシーンだろうか、という……このシーンもそうだよな、みたいなのはあの、コメントしてくれると嬉しいです。
……そうですね。
キメラアント編で「王(メルエム*3)が護衛軍を寝室から遠ざける可能性」、「ビゼフ*4が女性を調達していた理由」を考察していた際に発案された「パーム*5が王と子作りしている」ですね。(HUNTER×HUNTER 25巻 262話「突入②」)
いやまぁストーリー的にはこの後の「護衛軍以外の第三者が王と一緒にいる可能性」「自分で自分を傷つけるのはどんな時か」の方が重要、というのはわかっているんだけれども(こっちもこっちで間違えていたといえば間違えていたし)、ただまぁ、実際問題それが発生した際のこちらの動揺、みたいなものがシリアスな懸念点として挙げられている面白さと、いやまぁでも実際かなり動揺はするよな、みたいなその共感が、より印象を強めたのでしょう。
個人的には「変なことをできる立場にある人はどんどん変なことをするべきだ」みたいなことを、少なくとも創作については思っていて、この「的確な的外れ」というのは……俺はこんな具合に好きなんだけれども……でも……。
- まず、手間がかかる
- 作者が想定しづらい、間違った行動をキャラクターが取ってしまう
- 「実際その誤答がどのくらい間違っているのか?」を説明する必要が増える
- これらを加味したうえで、一部読者の間でキャラクターの「格」が下がる
……みたいな具合で、まぁ少なくとも新連載とか新人さんとかにはこれらを期待するのは酷だよね、ジャンプに連載できるチャンスとか一生のうちに何度もないからね、となるレベルには「変なこと」であるという自覚はあるので、冨樫先生には存分にやってほしいなぁ、と思っております。
……まぁ正直、どれだけ情報が飽和したところで、整理する時間には……おそらくそこまで困らないだろうし……と、いうのもあるのだけれど。
お身体などお気をつけて、少しでも長く……えーと、この場合の「長く」というのは、トータル、合計で考えた場合の連載期間を指して……長く連載していただければ、と思います。
結局「なぜルズールス王子の部屋の前だったのか」は正解発表されていないか……?
「自殺した(=途中で死んだ)場合の扱い」を知りたかっただけで、「場所」はただ攪乱のためだった、で良いんです?