節足雑踏イケタライク

日々思った事や、書籍・映画・その他の感想なんかを呟きます。あまりマジメではございません。

#成田作品ワンドロ 「クロハと虹介」5巻で完結!(極論1巻で完結!)入門にお勧めの成田作品!

#成田作品ワンドロ、今月は第二日曜日なんですよ。何故って先週はFakeがあったから。そちらの感想はこちらです。

 

zattomushi.hatenablog.com

 

さてやるぜ。今日は「クロハと虹介」だ!

 

事前情報0で読みたい人は以降のネタバレ注意!

後でもう一段階挟みます。

 

ヤクザのシノギを巡り始まった賭け麻雀。黒髪の美少女・宵闇クロハは慣れぬ手つきで並べ終わったばかりの牌を倒してこう言った。――「天和(テンホー)」と。ちょうど同じ町の同じころ、暴走したトラックがビルに突っ込んだ。不運な事故を嘆く野次馬達の目の前で、傷だらけの青年・室川虹介が立ちあがった。超幸運な少女と超不幸な青年が出会う時、運命の歯車が回り始める……!

Google books あらすじより引用)

 

物語としては王道の要素、「ボーイ・ミーツ・ガール」!ただし少年の方のLUK(幸運値)はマイナス方向でカンストし、逆に少女のLUKはプラスの方向でカンストしているのです。そんな彼と彼女がであってしまったらどうなるのか!……「出会ったらどうなるのか」だけなら本当に漫画一冊で終わるのでお勧めですよ。初めての方にも勧めやすい成田作品、として書いていきましょう!

 

(物心ついた頃から 私はとても『運』が良かった——)

(クロハと虹介 P26 宵闇クロハ)

 

超幸運な女の子、宵闇クロハ。いじめっ子はグンタイアリに食べられる。両親が宝くじで10億を当てる。……妬んだ親族に両親が殺されるも、自身は偶然の外出で無事。麻雀をやれば天和(四暗刻)!ロシアンルーレットは残り1発まで即撃ち可能……ラスト1発まで弾いたところで自身は不発!

 

「幸運」なんて能力は、最強議論なんかで時として出禁にされるレベルの超強力な能力だ。俺が初めて目にしたのは、コロコロでやってた「推理の星くん」のレインでしたかね……一応真面目な「推理漫画」に出てくる「運がいい」だけで戦う異質なキャラクターで、こういう「他の奴とルールが違う奴」「作品の中で1人だけジャンルが違う奴」は好みになったのは、彼の影響も大きかろう。

 

さてそんな強力な「幸運」能力持ち全般にもしかしたらいえる事かもしれないが……客観的に見てどう見ても幸せに見えないトラブルに巻き込まれがち、という部分がある。クロハちゃんもご多分に漏れぬ。家族を殺され、引き取られたのはヤクザの比場浦組。「負け知らずの代打ち」として様々な賭博に利用されるその生活は、衣食住の観点からすれば普通以上に認められているといえるかもしれないが、善良なクロハちゃんには耐えがたい場面も多く……逃げ出した先で彼女が出会うのが、超不運の室川虹介だ。

 

こちらの不運ぶりも中々だ。生後2ヶ月で毒ヘビに襲われるが引きちぎって事なきを得る。不運は今も尚続き、この街に来てからも泥棒が運び出そうとした金庫だのサイドブレーキをつけ忘れたトラックだのに潰されたり、日本でグンタイアリに襲われたりしている。彼が今なお生きているのは、彼が単純に強いから、に他ならない。事故る奴は不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった奴だが、無事に踊り切れるなら問題はないのだ。せやろか。

 

超不運な少年と、超幸運な少女の出会い。出会ってはいけない二人が出会ってしまった……その「出会い」は、少年の「不運」か、少女の「幸運」か、果たしてどちらに由来するものなのか。

 

そんなポエミィな語り口を、きっと虹介は笑い飛ばす。

 

「この世に『運』などというものは存在せん!」

「ただ偶然とその結果があるだけよ!」

「『幸運』など勝者に向けられる妬みの言葉よ 『不運』など敗者が己を慰める言葉よ!」

(クロハと虹介 P63 室川虹介)

 

誰よりも(同率1位:宵闇クロハ)運勢に弄ばれる人生を送りながら、それでも運勢を信じず、その腕力で襲い掛かる不運を弾き飛ばす虹介との出会いは……クロハにどう影響していくのか。……そして、頼れる代打ちを失った、組長も動き出す。宵闇クロハを、なんとしてでも再び捕らえ、己が味方とするために……!

 

「他人を踏みにじる事に愉楽を感じろ」

「生まれ持った幸運が他人の人生を陵辱する様を快楽としろ」

「敗者への哀れみも優越感も勝者だけの特権よ」

「紙一枚隔てた表と裏よ」

「寧ろ命がけで挑んだ者達を憐れむ事を 相手への侮辱と思わないか?」

「違うというなら撃つがいい 運ではない 自分の意思で命を奪う覚悟がお前にあるのか?」

(クロハと虹介 P37‐38「組長」)

 

「現実から目を逸らすな」

「お前の運の『使いみち』は私が用意してやる!」

「相手を踏み潰す快感を覚えろ!」

「それが豪運を持つお前に与えられた天命だ」

(クロハと虹介 P107 「組長」)

 

……実際、クロハちゃんレベルの「幸運」の心の持ちようとしては、まぁ選択肢としてはありだと思うんですが……読み返してどこか既視感があると思ったら、これFGO2部6章の妖精騎士トリスタンに対するモルガンだな。汚いモルガンだなぁ。

 

さて、2人の出会い、そして待ち受ける困難、そして結末……そういったストーリー的な部分を語るうえで、……ネタバレ注意!

 

 

 

……やはりP148の転換点は外せない。

 

……なんというんだろうか。一応読み返せば伏線自体はあるし、たぶん勘の良い人ならば気づけるレベルの奴ではあるんだろうけれども、それでもやはり「この世界って『それ』がいるんだ!」という驚きは、やはり初見で味わっていただきたいというか、本当に初見なんだったらできればこの文章の事は一度忘れて読んでいただきたいですね!

 

ネタバレ注意は一応もう一回挟んだけれども!

 

叙述系はこれだから勧めるのが難しいんだよな!まぁなんというか、上でいきなり別の漫画の話をしたのが伏線になっていたのだと、これはつまりそういう話。「他の奴とルールが違う奴」「作品の中で1人だけジャンルが違う奴」……好きですねぇ、今もなお。

 

続編「クロハと虹介 黒き魔女の嬉遊曲(ディヴィルメント)」についてもチラっと。

 

 

ストーリー的には1巻の続きから。「転換点」についてはこちらではもう完全に「この人はこういう人です」と早めに明かしていますので、嬉遊曲の1巻から読んでしまうと……うーん、行けなくはないと思うんですが、終盤ちょっとわかりにくい部分が出てくるだろうし、やっぱり初め……「クロハと虹介」から読んだ方が良いと思います。

 

魅力的な新キャラも数多く登場。個人的なベストキャラは蜜鐘藍さんですかね。裏稼業なら何でもござれの「荒事師」、その三姉妹の長女さんです。役割を敢えて言うのであれば裏方……死体の処理だとか情報収集、そもそもの仕事の受諾・進捗管理を行う……こう書くと普通のOLさんっぽさもありますが、しっかり裏の人間だ。死体を薬液で溶かしながらコンクリと混ぜるぞ。

 

とはいえども三姉妹……あるいはこの物語の登場人物の中では比較的、いわゆる「普通」の価値観に近い人ではある。

 

「誰が悪いなんて話をするなら——」

「家族をこんな事に巻き込んでる私が一番の悪人ですよ」

(クロハと虹介 黒き魔女の嬉遊曲 2巻P190 蜜鐘藍)

 

「家族なんです 助けられる事があれば助けるのはあたりまえです」

(クロハと虹介 黒き魔女の嬉遊曲 2巻P191 蜜鐘藍)

 

色々あって裏社会に身を置いている、自他ともに認める「悪人」ではあるが、特に「家族」に関する考え方は普通寄り……どちらかといえば「善人寄り」ですらあるかもしれない。そんな彼女が果たしてどのような物語を歩んでいくのか……ぜひとも読んでみていただきたい!

 

……慣れてきた人ならそろそろわかってきただろうか。「普通の価値観が育まれるのが難しい環境下においてそれでもなお『普通の価値観』を失わない者」であり、そして何よりも「姉」である。……成田キャラではこういう人が一番怖い。

 

あとは「嬉遊曲」の方では成田作品らしく群像劇としての側面も、より楽しめるものとなっている。各登場人物の情報量、視点の差、そこから生まれる誤解、そしてそれらが収束していって、最後はみんなで集合し……!

 

そういう意味でも「漫画5冊」で終わるクロハと虹介は、やはり成田作品入門にはお勧めの作品と言えるだろう。

 

「漫画5冊」のクロハと虹介、あとは「小説2巻」のシャークロアも良いかもしれませんね。漫画5冊と小説2巻は、割とどちらの方が手軽か人にもよるだろうし。

 

zattomushi.hatenablog.com

 

終始全方位に迷惑をかけまくる系荒事師のシガリさんとか、悪だくみとかはするし普通に腹黒系な子ではあるんだけどそれはそれとして読み返した際の第一印象が「気の毒」な秋明くんとかも好きですね。あとは「もうなんか全てを愛嬌でどうにかしてきたんだろうな」感があるミナミちゃんとか。

 

俺も書きながら「嬉遊曲終盤で必死に止めてたし悪い子じゃないんですよ」とフォローしたくなってきたが、そこを言い始めたらそもそも全部の原因この娘なんだよな。