以前「マリアビートル」の感想を書きました。
なんで「マリアビートル」の感想を書いたのか。そんなのは個人の自由なのですが、俺がこのタイミング(2020年7月)で記事を書いたのにはそんな自由を謳歌する以外の理由というものがありまして、要するにちょうどこのタイミングでマリアビートルのハリウッド映画化が発表されたわけですね。
今記事を見返したら無事に制作できるのか、というところから心配しておるわ……。まぁ気持ちはわかるが、とりあえず延期とかもなく、普通に公開されましたぜ、2020年の俺よ。
コロナは全然収束してないぜ。2020年の俺よ。
まぁ当時から「あと5年は無理だな」とか思っていたような気もするので、そこはあんまり意外じゃないかな。
ということでバレットトレインを見てきました。
上にも書いたけど原作既読です。
ということでネタバレ注意!公開中の映画なので反転多めで。
まー、全然原作と違ってましたね!
いや、まぁ……わかってはいたけれども。だってよう、公式のHP見てくれよ。
レディバグ。
天道虫、ブラピね。
レモン、タンジェリン。
果物ね、なるほど。
プリンス。
王子。……王子、女の子なのか、なるほど。
キムラ。
木村だな、ここは日本人か。
ホーネット。
雀蜂。いること、もうバラしちゃうんだ。まぁいいか。
ウルフ。
狼。……お前、出てきてすぐ死ぬやられ役Aじゃないのか?なぜ主要登場人物みたいな顔でそこに……。
エルダー。
……あなたは、木村のお父さん……?……いや、まぁ、間違いなく強キャラではあるが……。
ホワイト・デス(白い死神)
……誰!?
モモもん
……なに!?
まー、全員が「知ってるやつらとちょっと違う」ではあるのです。ここで終われば、まぁちょっと、なんで変えたんだ的に荒れる要素ではあるでしょうね。だがその「違い」は、少なくとも俺にとってはどれも魅力的だったので、俺にとっては何の問題もないのですが。
まぁアレですね、狼とウルフの違いは特によかった。
原作の狼は殺し屋の中でも特に嫌われ者で、女子供などの「自分より力の弱いモノ」しか相手にしない……その癖大ぼら吹きで、「鯨(マリアビートルの前作、グラスホッパーに登場する殺し屋。かなり強い)は俺が殺した」だとか、実績だけは盛りまくる……言ってしまえば「童話の世界のわるい狼」だったのです。赤ずきんだとか三匹の子ぶただとか、そういうアレの概念サーヴァントですね。
だからまぁ出てきたらすぐに死ぬやられ役Aでしかなかったのだが……。「そういう存在」だから「タイトルになっている存在」「(言ってしまえば)主役」にすげぇ弱かったんだろうな……。逆に女性特攻、子供特攻とかは持っていたかもしれないけれど。
さて狼とはどういう存在だろうか。子供に教訓を与えるためだけに、あるいは、ただ子供を楽しませるためだけに、ただ無様に。滑稽に。してやられるだけの存在だろうか。
「そんなことはない」
ウルフの遠吠えが聞こえるか。
メキシコの荒野にウルフが吠える。レディバグと出会った彼の脳裏によぎったのは、それまでの自身の生きてきた軌跡に他ならない。少年時代。青年期。ボスとの出会い。愛する人との出会い。幸せな結婚。そして、悲劇。自身の今までの人生を取り戻す、その手掛かりが目の前に!
そこにいるのはやられ役の狼に非ず。群れを殺され、復讐に燃える、一匹の気高きウルフである!
まぁ物語上の役割は結局のところ出てきたらすぐに死ぬやられ役Aではあるんだけども……。
この「違うといえば違うけれども原作通りといえば原作通り」の塩梅は、後半でも変わらない。ホワイト・デスもふたを開けてみれば「原作からして弱いわけないあの人が実際戦ったら弱いわけなかった」……と言ってしまえば少し乱暴ではあるが、まぁ、そういうことである。
あとはプリンスですね。狼とは逆に原作とくらべるとやや悪辣さが減った印象を受ける……が、これに関してはプリンスは何も悪くなくて、原作王子が悪すぎるのが悪い。なんなんだアイツは。「現代日本が舞台の小説に出てくる悪徳警官」で城山(オーデュボンの祈り)を出した伊坂幸太郎の考えたキャラです。じゃあ納得。
で、悪辣さは減っているんですが、キャラクター同士の因縁は増してます。それが最終盤にも絡んできて、いい感じ。
総じて原作とは別の味わいながらも、独自の旨味があって、それでいて原作の空気感は確かに存在する良い映画だったと思います。原作感想で俺が好みと書いた「質問と回答」絡みのやり取りはかなり……というか全カットされてしまったので、そこはちょっと残念ではあったけれども、けども最後のアクションシーンとかはハリウッドならでは、という感じで、えがったですね。
ちなみに上であんな風に書いたけれども、狼さん、俺は好きですよ。
伊坂幸太郎の作品に出てくる殺し屋はみんな格好いいのですが、それはそれとして、ああいう困った奴はどこにでもいるのさ。